法律コラム

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遺産紛争の解決手段

はじめに

遺産相続が発生すると、もともと仲が悪かった家族だけでなく、それまで仲が良かった家族間ですら、遺産を巡ってトラブルに発展してしまうことがあります。

それでも、話合いで解決できればまだよいですが、感情的な対立により冷静な話し合いができず、協議がまったく進まない、というケースも少なくありません。そのような場合は、裁判所の手続を利用して解決するしかありません。

そこで今回は、さまざまな相続紛争ごとに、その解決手段について説明したいと思います。

01 遺産分割調停・審判

故人の遺産について、相続人間で遺産分割についての話し合いがつかない場合は、相続人のうちの1人もしくは何人かが、他の相続人を相手方として、家庭裁判所に対し、遺産分割調停の申立てをすることができます。

調停手続では、調停委員ないし調停委員会が当事者双方から事情を聴き、また、それぞれの主張の根拠となる資料等を提出させ、各当事者がそれぞれどのような遺産分割を希望しているか意向を聴取したうえで、分割案を提示し、または解決のために必要な助言をするなどして、調停成立に向けた話合いが進められます。統計的には、約半年~1年程度の審理期間で解決することが最も多くはありますが、中には、不動産や自社株式の評価等で折り合いがつかず、審理期間が2年~3年程度になることもあります。

ちなみに、東京家庭裁判所では、原則、以下の順番に従い調停手続を進めていく運用となっており、この順番で話合いを進めることが比較的厳格に遵守されています。そのため、当該事案における主たる争点が寄与分と思われる場合であっても、調停では、①~③と順番に話し合いを進め、③までの点につき当事者間で合意をしたうえで、④の話に進む必要があります。

 ①相続人の範囲の確定
 ②遺産の範囲の確定
 ③遺産の評価の確定
 ④修正事情(特別受益・寄与分等)の調整
 ⑤遺産分割方法の決定

【参照】
裁判所ホームページ:「遺産分割調停の進め方

また、最近は、次回期日だけではなく次々回期日まで、原則として向こう2期日の日時を予め指定する運用がとられています。

そして、話合いがまとまらず調停が不成立になった場合には自動的に審判手続が開始され、裁判官が、遺産に属する物又は権利の種類及び性質その他一切の事情を考慮して、家庭裁判所(裁判官)の判断により遺産分割方法を決める「審判」をすることになります。

なお、家庭裁判所がした遺産分割審判に対して不服がある場合、即時抗告をすることができます(家事事件手続法198条1項1号)。即時抗告を行うことができる期間は、審判の告知を受けた日から2週間以内に行う必要があります(同法86条1項)。

02 遺産に関する紛争調整調停

遺産の有無や範囲、相続権の有無、遺言の有効性など、相続人間で遺産相続の前提問題に争いがある場合で、当事者間での話合いがまとまらない等の場合には、相続人の1人は、前提問題を争う他の相続人に対し、家庭裁判所に対し調停を申し立てることができます。例えば、相続人の1人の名義になっている不動産が故人の遺産であったかどうかについて、相続人の一部で争いがある場合などが典型例です。

この場合、遺産であると主張する相続人は、名義人となっている他の相続人に対し、調停を申し立てたうえで、遺産分割の前提問題として、当該不動産が遺産であるか否かを話し合いにより確定させることになります。

実際は、遺産相続の前提問題を解決するための手続である遺産に関する紛争調整調停を利用し、話し合いにより機運が熟した場合には、同調停の中で遺産分割全体の話し合いを成立させることもあり得ます。

03 遺留分侵害額請求調停・訴訟

遺留分とは、故人の兄弟姉妹以外の相続人に対して留保された相続財産の割合のことであり、遺留分侵害額請求とは、遺留分を侵害された者が、贈与又は遺贈を受けた者に対し、遺留分が侵害された限度で金銭の支払いを請求することです。

遺留分侵害額請求について当事者間で話合いがつかない場合や話合いができない場合には、遺留分権利者は、家庭裁判所の調停手続を利用することができます。

調停手続では、調停委員の関与のもとに、引き続き話し合いによる解決を目指しますが、調停手続で話し合いがまとまらなかった場合には、遺留分権利者は、地方裁判所の訴訟手続を利用し、最終的には裁判所に遺留分侵害額についての判断をしてもらうことになります。

なお、遺留分侵害額請求は侵害者に対する意思表示をもってすれば足りますが、家庭裁判所の調停を申し立てただけでは、侵害者に対し侵害額請求の意思表示をしたことにはなりませんので、別途、内容証明郵便等の方法により意思表示を行っておくのが望ましいでしょう。

また、遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈のあったことを知ったときから1年又は相続開始のときから10年を経過したときは時効となりますので、注意が必要です(民法1048条)。

04 使い込み(使途不明金)返還請求訴訟

被相続人の生前、または死後に、法定相続人が故人の預金を勝手に引き出し、私的に使用している場合があります。

この場合、他の法定相続人は、勝手に引き出した者に対し、自己の法定相続分に応じた預金額を返還するよう請求することができます。

相続開始前の引出し

被相続人が処分者に対し、引き出された預金について、不当利得返還請求権ないし不法行為の損害賠償請求権を取得し、相続開始により、他の法定相続人が、法定相続分に応じて分割された同債権を取得することになります。

相続開始後の引出し

遺産たる預金は、法定相続分に応じて各相続人が承継するため、他の法定相続人は、引き出された預金に対する自己の法定相続分に応じた割合を、不当利得返還請求ないし不法行為の損害賠償請求をすることができます。

そして、不当利得返還請求等に相手方が応じない場合、使い込み返還請求訴訟を、請求額に応じ地方裁判所または簡易裁判所に提起することになります。

使い込み(使途不明金)の事実について、原則的には原告側で主張と立証を行う必要があり、これに対し被告側では、自分は引き出していない(別の者が引き出した)、もしくは、被相続人に頼まれたのであり、勝手に引き出したものではなく、被相続人に渡している、などと反論していくことになります。

もっとも、裁判実務では、使い込み返還請求訴訟における挙証責任を原告側のみに課すという運用ではなく、被告が被相続人と同居し、その財産を管理していたのに、裁判所の釈明に対しても単に使い込みを否認するなど合理的な説明をしないような場合には、それ自体を弁論の全趣旨として被告に不利益に考慮し、使い込みが認定される場合もあります。

いずれにしても、使い込み返還請求訴訟では、証拠の有無が特に重要といえますので、情報と証拠については、できる限り集められるに越したことはありません。

なお、相続法の改正により、相続発生後遺産分割協議前の使い込みについては、処分相続人以外が同意することにより、使い込まれた相続財産が遺産分割時に存在するものとみなすことができ、それにより、遺産分割の対象財産とすることができるようになりました。

05 遺産確認の訴え

遺産分割を行うにあたっては、まず、①相続人を確定し、②遺産の範囲を確定させたうえで、③遺産を評価し、④特別受益や寄与分などの修正事情がないか検討したうえで、⑤遺産分割方法を決定します。実際に、東京家庭裁判所における遺産分割調停の進め方は、①~⑤の順で進める運用です。

しかし、ある特定の財産が、そもそも被相続人の遺産か否かについて、争われることがあります。例えば、被相続人から第三者に登記名義が変更されているものの、所有権移転の有無について争われるような場合です。このような場合、当該不動産が遺産か否かにより、遺産分割の対象も異なってきます。そのため、遺産の範囲は、遺産分割の前提として、是非とも解決しておかなければいけない問題といえます。

遺産の範囲を確定する方法としては、遺産分割調停において相続人間で遺産の範囲を合意するか、遺産分割審判で判断してもらうという方法が考えられます。しかし、調停では話合いがまとまらなければ解決できませんし、遺産分割の審判には、相続財産の範囲について既判力がないと考えられているため(最判昭和41年3月2日)、抜本的な解決となりません。

そこで、既判力ある裁判所の判断により遺産の範囲を確定するため、遺産分割の前提問題として、地方裁判所に対し、遺産確認の訴えを提起することになります。

なお、この訴訟は固有必要的共同訴訟と解されていますので(最判平成元年3月28日)、自分以外の相続人全員も相手方として訴訟を提起しなければいけません。

06 遺言無効確認の訴え

遺言が存在する場合でも、遺言の効力について争いになることがあります。その場合、遺言無効確認請求訴訟を提起し、遺言の有効無効について、裁判所の判断を得て確定させるという方法が考えられます。

よく主張される無効原因としては、例えば、遺言者が遺言作成当時に遺言能力(事理弁識能力)を欠いていた、遺言が法律に定める様式を欠いていた、遺言者が遺言に際し重要な事実を勘違いしていたため錯誤により無効である、などがあります。

なお、遺言無効の確認を求める場合、原則として、家庭裁判所の家事調停手続を経なければいけませんが(これを、調停前置主義といいます。家事事件手続法257条参照)、当事者間の見解の対立が顕著で、調停で解決する見込みが全くないような場合には、調停を経ずに訴訟を提起した場合でも、そのまま訴訟手続で審理される場合もあります。

07 縁組無効確認請求訴訟

相続において、養子は実子と同様、相続人となり、遺留分を有します。しかし、被相続人が亡くなる直前、例えば施設への入居中や病院への入院中に養子縁組が行われ、そもそも被相続人が自分の意思で養子縁組をしたのか疑わしいケースもあります。そのような場合、他の相続人は、養子縁組により相続人が増え、自己の相続分が減ってしまうことから、相続の前提問題として、養子縁組の有効性を争うことがあります。

養子縁組の無効原因としては、「当事者に縁組をする意思がないとき」、すなわち縁組意思がない場合と規定されていますが(民法802条1号)、縁組意思とは、真に親子関係と認められるような身分関係の設定を欲する意思であるとされています。そして、その判断にあたっては、養子縁組に至った経緯や養子縁組の必要性など、様々な事業が考慮され、実質的に判断されることになります。

例えば、専ら相続税の節税目的で養子縁組が行われた場合について、判例は、以下のとおり判示し、相続税の節税目的のためであっても縁組意思を肯定しています。

【判例】
『養子縁組は、嫡出親子関係を創設するものであり、養子は養親の相続人となるところ、養子縁組をすることによる相続税の節税効果は、相続人の数が増加することに伴い、遺産に係る基礎控除額を相続人の数に応じて算出するものとするなどの相続税法の規定によって発生し得るものである。相続税の節税のために養子縁組をすることは、このような節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするものにほかならず、相続税の節税の動機と縁組をする意思とは、併存し得るものである。したがって、専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない。』(最判平成29年1月31日

まとめ

いかがでしたか。各種の相続紛争について、相続人間で話し合いによる解決が難しい場合には、裁判所の手続を利用して解決していくほかありません。

その際に、安易な妥協をせずに自己の権利の最大限の実現を目指す、ということも1つの選択ですが、裁判手続を利用する場合、一般論として、時間的・経済的・精神的などのさまざまなコストが発生します。

そのため、やみくもに争うのではなく、優先順位をつけて、当該相続紛争に向き合い解決策を模索していくのが、現実的な対応ではないかと思います。

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