法律コラム

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特別受益・寄与分の時的限界と相続登記の義務化

はじめに

令和3年の民法と不動産登記法の改正により、令和5年4月1日以降に発生した相続については、原則として、相続開始後10年以内に限り、特別受益や寄与分の主張を行えるようになりました(民法904条の3本文)。

また、令和6年4月1日以降、相続人は、原則として、相続による不動産取得を知った日から3年以内に相続登記を行うことが義務化されました(改正不動産登記法76条の2)。

今回は、令和3年の民法と不動産登記法の各改正内容について説明します。

01 特別受益と寄与分の期間制限

改正前における取扱い

特別受益とは、遺産の先渡したる生前贈与を遺産に持ち戻したうえで、受贈者についてはその生前贈与分を控除して、各相続人の具体的な相続額を算出する考え方です(民法903条1項)。

寄与分とは、共同相続人中に、被相続人の財産の維持又は増加に特別の寄与をした者があるときに、その寄与に相当する額を相続額に上乗せして各相続人の相続分を算出する考え方です(904条2項)。

いずれも、相続人間の実質的公平を図るために認められている制度であり、各相続人の具体的相続分を定めるための修正事情として、特別受益や寄与分が考慮されることになりますが、以前は、その主張をすることについての時間的制約はありませんでした。

改正後における取扱い

しかし、今般の民法改正により、令和5年4月1日以降に発生した相続については、相続開始後10年以内に限り、特別受益や寄与分の主張を行えることになりました。つまり、今後は、相続開始から10年を経過してしまった場合、法定相続分による遺産分割が原則となります。これは、各相続人に対し早期に遺産分割を行うインセンティブを与え、遺産分割が放置される事態を可能な限り防ぐ趣旨になります。

ただし、相続人間で合意すれば、10年を経過した後も特別受益や寄与分を考慮した遺産分割は可能と考えられています。

【参照】
法務省ホームページ:「具体的相続分による遺産分割の時的限界

なお、以下の場合は、相続開始後10年を経過した後であっても、法律上、特別受益や寄与分の主張を行えます(民法904条の3但書)。

・相続開始後10年を経過する前に家裁に遺産分割の請求(調停・審判)をしたとき
・相続開始後10年の満了前6か月以内に遺産分割の請求をすることができないやむを得ない事由がある場合であって、その事由が消滅した時から6か月を経過する前に家裁に遺産分割の請求をしたとき

経過措置

特別受益や寄与分などの修正事情についての10年間の主張制限は、令和5年4月1日に施行されていますが、同日より前に発生した相続についても適用されます。

もっとも、経過措置が置かれており、「相続開始の時から10年を経過する時又は民法等の一部を改正する法律の施行の時から5年を経過する時のいずれか遅い時まで」(附則3条)と規定されました。

具体的には、平成30年4月1日より前に発生した相続については、令和10年4月1日から特別受益や寄与分の主張制限を受け、平成30年4月1日以降に発生した相続については、改正法の規定とおり、相続開始から10年を経過することで特別受益や寄与分の主張制限を受けることになります。

02 相続登記の義務化

改正の背景

いわゆる所有者不明土地が年々増加している深刻な状況を打開するために、不動産登記法の一部が改正され、これまでは登記期間の制限がなかった相続登記について義務化されました。これにより、各相続人は、不動産の相続を知った日、または施行日(令和6年4月1日)のいずれか遅い日から3年以内に、相続登記を行わなければいけません。

そして、遺言により不動産を取得した相続人については、相続が開始したことに加え、遺言により自身が不動産を相続したこと知った日から3年以内に、相続登記を行う必要があります。

正当な理由なく申請期限内に相続登記をしなかった場合、10万円以下の過料が課せられる可能性があります。「正当な理由」としては、例えば、相続登記を放置したことにより相続人の数が極めて多数の上り、相続人の調査に多くの時間を要すると認められる場合遺言の有効性や遺産の範囲など、遺産分割の前提問題について争いがある場合、申告義務を負う相続人自身が重病等である場合、などが考えられます。

相続人申告登記の新設

遺産分割では、不動産の評価は時価で行うため、その時価をいくらとするかや分け方について相続人間で争いになることが少なくありません。特に不動産が複数あるような場合には、評価や分け方をめぐり、遺産分割協議が成立するまで3年以上の期間を要する場合もあります。そうなると、不動産の相続を知った日から3年を経過してしまい、申請期限内に相続登記を行えず、過料の制裁を受けてしまう可能性があります。

そこで改正法では、早期に遺産分割を行うことができないような場合には、各相続人から単独で「相続人申告登記」を行えることとし、この登記が3年以内に行われた場合には、相続登記の義務違反はないものと扱われることになりました。

【参照】
法務省ホームページ:「備えて安心!令和6年4月1日から相続登記が義務化されます!

「相続人申告登記」とは、登記簿上の所有名義人に相続が開始したことと、申告者がその相続人であることを申し出る制度です。この申し出をすることにより、申出者の氏名と住所が登記され、相続登記の申告義務を履行したものとみなされます。そして、この申し出は、相続人が複数いる場合でも単独で行うことができるため、遺産分割協議がなかなかまとまらず、3年を経過してしまうような場合において、ひとまず相続登記の義務違反とならないように行っておく、という形で利用されることが想定されます。

また、他の相続人としても、登記簿を見れば申出者の住所や氏名が分かるため、遺産分割協議が行われていないようなケースにおいて、相続人申告登記の住所と氏名を確認し、相続人間での遺産分割協議が早期に開始されることも期待されています。

経過措置

相続登記の義務化の施行日は令和6年4月1日ですが、施行日前に発生していた相続についても、相続登記の申請義務が課されることになります。もっとも、これを杓子定規に適用してしまうと、施行日時点で既に相続登記の義務違反、という事態が生じかねません。

そこで、経過措置が設けられており、相続による不動産取得を知った日と、施行日(令和6年4月1日)のいずれか遅い日から3年以内に相続登記が行われれば、相続登記の義務違反とはならないこととされています。

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