法律コラム

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遺産相続における債務と費用の取扱い

はじめに

遺産相続では、被相続人のプラスの財産だけではなく、債務も相続人に引き継がれます。

しかし、債務については、プラスの財産のように遺産分割で承継者を決めるわけではありません。また、相続される債務の範囲についても、相続開始後に発生したものを含むかなど、正確に把握しておく必要があります。

そこで今回は、相続における債務と費用の取扱いについて説明したいと思います。

01  債務は遺産分割の対象外

遺産分割とは、協議・調停・審判等により、相続人間で被相続人の遺産を分けること、を言います。

もっとも、遺産分割の対象となる遺産は、被相続人のプラスの財産だけで、債務を含みません。債務については、相続分の割合で当然に分割され、各相続人が承継します

最判S34.6.19
『債務者が死亡し、相続人が数人ある場合に、被相続人の金銭債務その他の可分債務は、法律上当然分割され、各共同相続人がその相続分に応じてこれを承継するものと解すべきである』

なお、相続人間で、法定相続分とは異なる割合で債務の負担者又は負担割合を決めることも可能です。その意味で、債務を遺産分割協議の対象にすることは可能です。

例えば、遺産分割において、特定の相続人が被相続人の事業を承継する場合に、債務をすべて承継する代わりに、事業用財産のすべての相続を認める、などという場合などが典型的です。

もっとも、いくら相続人間で債務の負担を法定相続分と異なる割合で合意したとしても、債権者の了解を得ない限り、当然には合意に基づく負担割合を債権者に対抗できません。なぜなら、相続人間で法定相続分と異なる割合で債務の負担者を決められるとすると、債権者が、承継した相続人の無資力のリスクを負わなければいけなくなるからです。

実際に債務の遺産分割を行う方法としては、予め債権者の了解を得ておいたうえで、①債務を承継しない相続人、②遺産分割により法定相続分の割合を超えて債務を相続する相続人及び③債権者の三者間で免責的債務引受契約を締結します。これにより、債権者との関係でも、特定の相続人のみが被相続人の債務を負担する形を実現できることになります。

02 相続される債務の範囲

遺産相続により各相続人が承継する債務は、相続開始時までに発生した被相続人の債務です。

例えば、生前の固定資産税や保険料などの公租公課、病院費用、カード未払金などがこれに当たりますし、その他、被相続人の借入金や交通事故の損害賠償債務などがあれば、それらも法定相続分の割合で各相続人が承継します。

それでは、以下の債務や費用は相続人に承継されるでしょうか。

連帯債務

連帯債務とは、債務の目的がその性質上可分である場合に、数人が連帯して負担している債務を言います。連帯債務者は、債権者に対し、各自が債務全額についての返済義務を負うことになります

連帯債務について、判例は、通常の金銭債務と同様に可分債務(債務の目的がその性質上可分である場合)であり、各相続人は、その法定相続割合で、本来の連帯債務者とともに連帯債務者となると判示しています。

【最判S34.6.19】
『連帯債務は、数人の債務者が同一内容の給付につき各独立に全部の給付をなすべき債務を負担しているのであり、各債務は債権の確保及び満足という共同の目的を達する手段として相互に関連結合しているが、なお、可分なること通常の金銭債務と同様である…(中略)…連帯債務者の一人が死亡した場合においても、その相続人らは、被相続人の債務の分割されたものを承継し、各自その承継した範囲において、本来の債務者とともに連帯債務者となると解するのが相当である』

例えば、1000万円の債務について、連帯債務者がAとBであったところ、Bに相続が発生し、相続人がZとYで各法定相続分が2分の1という場合、ZとYは、Bの連帯債務1000万円を法定相続分に基づき各500万円承継し、その結果、Aは1000万円全額につき、ZとYは各500万円の範囲で、それぞれ連帯債務を負うことになります。

保証債務

保証債務とは、主たる債務者に代わって債務を履行しなければならない債務のことを言います。保証債務は、主たる債務者が履行している限り請求されないのが原則ですが、連帯保証債務の場合は、債権者に対し、主たる債務者と連帯して債務を履行しなければいけません。

保証債務も「債務」ですので、相続人に承継されます。もっとも、各相続人が承継する連帯保証債務は、連帯債務の場合と同様、その法定相続割合で分割された範囲となります

例えば、1000万円の債務について、Aが主たる債務者で、Bが連帯保証人であったところ、Bに相続が発生し、相続人がZとYで各法定相続分が2分の1という場合、ZとYは、Bの連帯保証債務1000万円を法定相続分に基づき各500万円承継し、その結果、ZとYは各500万円の範囲で、それぞれ連帯保証債務を負うことになります。

不可分債務

不可分債務とは、債務の目的がその性質上不可分であり、複数の債務者が同一の履行義務のすべてを負う債務のことを言います。例えば、不動産を売却した場合の不動産の引渡義務などがこれに当たります。

不可分債務も「債務」ですので、相続人に承継されます。そして、不可分債務については法定相続分に応じて分割する、ということができませんので、債権者は各相続人に対し、債務全部の履行を求めることができることになります。

葬儀費用

相続税の計算上、葬儀費用は遺産総額から差し引くことができます。

【参照】
国税庁ホームページ:「相続財産から控除できる葬式費用

しかし、葬儀費用は、相続開始後に、喪主(通常は特定の相続人)が葬儀会社に申し込むことで発生する費用であり、相続開始時に被相続人が負担していた債務ではないため、相続人に承継されません。

葬儀費用の負担者については、喪主負担説、相続人負担説、相続財産負担説などの様々な考え方がありますが、裁判例では、特段の事情がなければ喪主負担説を採用しているケースが多いと思います。

いずれにしても、葬儀費用の負担者について争いにならないようにしておくためには、被相続人が遺言で、葬儀費用の負担者や、遺産で負担することを指定しておくのが望ましいでしょう。

なお、葬儀費用の負担者について遺言書に定めがない場合でも、葬儀に相続人全員が出席している場合は、相続財産から葬儀費用を支出することについて、相続人全員の合意を得られる場合が少なくありません。

実際に葬儀費用の負担者について争いになるのは、葬儀に出席していない(知らされていない)相続人がいる場合だと思います。

03 遺産管理費用

相続発生後に遺産から生じた費用は、遺産管理費用として、相続人がその法定相続分に応じ負担しなければいけません。例えば、相続発生後に生じる不動産の固定資産税、庭木の伐採剪定費用、建物の修繕費用、電気・ガス・水道などの各種ライフラインの支払いなどが、遺産管理費用に当たります。

上記のとおり、遺産管理費用は各相続人がその法定相続分に応じ負担する必要があるため、特定の相続人が全部負担した場合、例えば、相続人ABCのうち、Aのみが遺産管理費用を支払った場合、BCは自己の法定相続分に応じた金額分について、法律上の原因なく利得を得ていることになります。

そこで、Aとしては、BCそれぞれに対し、支出した遺産管理費用のうち、BCの各法定相続分に応じた金額を請求できることになります。

そして、BCがこれに応じない場合、Aは、通常の民事訴訟を提起して、遺産管理費用の精算を求めていくことになります。この場合、家事調停(遺産分割調停)ではなく、民事訴訟(不当利得返還請求訴訟)での解決が必要となる点に注意が必要です。

もっとも、当事者全員が合意する場合には、遺産管理費用の精算についても、遺産分割協議内で一緒に行うことが可能です。

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