法律コラム

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相続欠格と相続廃除

はじめに

平成30年の相続法改正により、被相続人に対して療養介護等の貢献をした親族に対する財産分与が認められるようになりました(相続コラム「相続法改正~特別寄与料」参照。)。家族の在り方の変化とともに、法は、被相続人に特別に貢献した親族も財産を受け取れるように制度を変更することで、実質的な公平を図ろうとしています。

一方で、形式的には法定相続人に該当する場合であっても、一定の行為を行った者に対しては、強制的に相続権を剥奪することを定めています(相続欠格)。また、一定の場合に、被相続人が自分の意思で相続人の相続権を剥奪することを認めています(相続廃除)。

そこで今回は、法定相続人の地位にありながら相続権が剥奪される「相続欠格」と「相続廃除」について説明したいと思います。(相続人:法律コラム「相続人の範囲における原則と例外」もご参照ください。)

01 相続欠格とは

相続欠格とは、法律では形式的に相続人と定められている人が、相続制度の根幹を破壊するような一定の行為をした場合に、強制的にその相続権を失わせる制度です。民法では、欠格事由として、以下の5つを規定しています。

【民法891条1~5号】
① 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
② 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者
③ 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
④ 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
⑤ 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者

法定相続人が上記の欠格事由に当たる行為を行った場合、当然に相続権を失います。欠格事由に当たるか否かが相続人間で争われる場合、欠格事由を主張する相続人が相続人の地位不存在確認請求訴訟を提起し、判決により、相続権の有無(欠格事由の有無)を確定させることになります。

なお、相続欠格は代襲原因になりますので、例えば、父の相続で相続人が長男二男三男の3名の場合、長男に相続欠格があっても、長男の子が代襲相続人となります。

02 欠格事由の具体例

相続欠格に該当する5つの行為のうち、殺人・詐欺・強迫に関連する行為があった場合に相続権が剥奪されてしまうということは、一般的に理解しやすいと思います。

実務上よく問題となるのは、遺言書の偽造、変造、破棄、隠匿があった場合です。遺言書の存在は、被相続人と同居していた相続人など、特定の相続人のみが知っているという場合が少なくなく、偽造や隠匿等が比較的容易であり、かつ、そのようなことが行われたについて、他の相続人はすぐに認識できるわけではありません。

もっとも、従前の被相続人の言動等に照らし、「このような遺言内容を書くわけがない」「遺言書が存在しないわけがない」と考えられるような場合、遺言書の偽造や変造、破棄や隠匿が疑われることになり、欠格事由の有無をめぐる争いが顕在化することになります。

偽造:被相続人の名前で、相続人が被相続人の遺言を作成すること
変造:被相続人が作成した遺言書について、相続人がその内容に変更を加えること
破棄:遺言書を勝手に破いて捨てるなど、遺言の効力を消滅させようとすること
隠匿:遺言書の発見を妨げようとすること

裁判所の判断基準

最高裁は、欠格事由の有無を判断するにあたり、以下の点を考慮しています。

 民事上の制裁を課す必要がある程度の行為かどうか

最判昭和56年4月3日
『民法891条3号ないし5号の趣旨とするところは遺言に関し著しく不当な干渉行為をした相続人に対し相続人となる資格を失わせるという民事上の制裁を課そうとするにあることにかんがみると、相続に関する被相続人の遺言書がその方式を欠くために無効である場合又は有効な遺言書についてされている訂正がその方式を欠くために無効である場合に、相続人がその方式を具備させることにより有効な遺言書としての外形又は有効な訂正としての外形を作出する行為は、同条五号にいう遺言書の偽造又は変造にあたるけれども、相続人が遺言者たる被相続人の意思を実現させるためにその法形式を整える趣旨で右の行為をしたにすぎないときには、右相続人は同号所定の相続欠格者にはあたらないものと解するのが相当である』

 不当な利益を得る目的で行った行為かどうか

最判平成9年1月28日
『相続人が相続に関する被相続人の遺言書を破棄又は隠匿した場合において、相続人の右行為が相続に関して不当な利益を目的とするものでなかったときは、右相続人は、民法891条5号所定の相続欠格者には当たらないものと解するのが相当である。けだし、同条5号の趣旨は遺言に関し著しく不当な干渉行為をした相続人に対して相続人となる資格を失わせるという民事上の制裁を課そうとするところにあるが(最判昭和56年4月3日)、遺言書の破棄又は隠匿行為が相続に関して不当な利益を目的とするものでなかったときは、これを遺言に関する著しく不当な干渉行為ということはできず、このような行為をした者に相続人となる資格を失わせるという厳しい制裁を課することは、同条5号の趣旨に沿わないからである

欠格事由が認められた事例

・適切な意思表示をなし得ない状態の被相続人に、公正証書遺言を作成させた場合(広島高判平成14年8月27日)
・日付のない遺言書に、相続人が被相続人の意思に基づかず日付を記入した場合(さいたま地判平成20年9月24日)
・遺留分減殺請求をさせないために、遺言書の存在を他の相続人に隠していた場合(東京高判昭和45年3月17日)

欠格事由が認められなかった事例

・自身に有利な自筆証書遺言が存在することを他の相続人に明らかにしなかった場合(東京地判平成27年3月18日、東京地判平成29年2月22日)
秘匿したことで秘匿した相続人が受ける遺産が多くなるわけではない点等も踏まえ、いずれの事案でも、不当な利益を目的としていたとは認められない、あるいは、認めるに足りる証拠がない、と判断しています。

03 相続廃除とは

相続廃除とは、被相続人が本人の意思で、法律で形式的に相続人と定められており、かつ遺留分を有する者から、相続人の資格を剥奪する制度です。

相続廃除を行うためには家庭裁判所の手続きが必要となります。また、相続廃除が認められるためには、法律で定められた廃除事由(民法892条)が存在することが必要です。

裁判例でも、『相続的協同関係が破壊され、又は破壊される可能性がある場合に、そのことを理由に遺留分権を有する推定相続人の相続権を奪う制度であるから、民法892条所定の廃除事由は、客観的かつ社会通念に照らし、推定相続人の遺留分を否定することが正当であると判断される程度に重大なものでなければならないと解すべき』(神戸家伊丹支審平成20年10月17日)であると判示しています。

なお、被相続人が自ら申立人となって、廃除審判の申立てを家庭裁判所に行うこともできますが(民法892条)、遺言で相続廃除の意思表示をすることもできます(民法893条)。遺言廃除の場合、遺言執行者が廃除審判の申立てを行うことになります。

【廃除事由(民法892条)】
①相続人が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき
②相続人に著しい非行があったとき

04 廃除原因の具体例

家庭裁判所において廃除事由が認められると、相続廃除の審判がなされます。この審判が確定した時点で、当該相続人は相続権を失います。その後、戸籍への届出をすることで、戸籍に相続廃除された旨が記載されることになります。

 廃除事由① 被相続人に対する虐待、重大な侮辱

例えば、被相続人に対する継続的な暴行や暴言、告訴や訴訟の提起などがこれに当たります。

もっとも、相続廃除もまた、相続権を剥奪するのが相当といえる場合に認められるものであるため、該当行為が一時的であったり、被相続人にも原因がある場合、該当行為に正当性がある場合などには、廃除事由にはあらないと判断される可能性が高いと考えられます。

 廃除事由② 著しい非行

例えば、相続人による被相続人財産の浪費及び散財、相続人に複数の犯罪歴があること、相続人の行方不明、被相続人の遺棄などがこれにあたります。

もっとも、実際に廃除事由として著しい非行を認めた裁判例では、これらの代表的な非行行為の1つだけを認定しているのではなく、複数の非行行為を認定し、廃除事由ありとの判断をしているケースが多く見受けられます。

相続廃除という制度が、相続権を剥奪するものであるため、これを正当化できるほどに、被相続人と相続人の人的な信頼関係が破壊されるような行為があった場合のみ、廃除事由を認めているものと考えられます。非行行為が一時的であること、被相続人以外に向けられたものであること、被相続人に帰責性があることなどの事情は、廃除事由なしとの判断に傾く事情といえるでしょう。

 裁判例

実際に、著しい非行があるとして相続廃除が認められた裁判例としては、以下のようなものがあります。

・借金を重ね、被相続人に2000万円以上を返済させたり、ヤミ金などの債権者が被相続人宅に押しかけること等により、被相続人を約20年にわたり、経済的・精神的に苦しめた事例(神戸家伊丹支審平成20年10月17日)

・『推定相続人である相手方は、被相続人である●●の死亡が間近いことを察知するや、その遺産の相続関係について上記被相続人の最終的な処分意思は無視し、あらかじめ既成事実を作り上げて、その遺産のほとんどの部分を可能な限り実質上自己において単独取得しようと図り、偽計を用いて上記預貯金や上記実印を各入手し、上記被相続人の意思に基づくことなく、自己名義あるいはその妻子名義などに上記各名義変更をなし、よつて主観的にも余命いくばくもないことを自覚しており、かつ客観的にも臨終が近い状態にあつた上記被相続人を激しい怒りと悲嘆に陥れ、同被相続人に対し甚しく不当な精神的苦痛を与えたものであり・・・相手方の妻がその看護に当つたこと等の扶養的行為をじゆうぶん考慮に入れてみても、本件における相手方の上記各名義変更などの行為は、およそ被相続人と推定相続人との相続的協同関係を破壊するに足りる著しい非行であるといわなければならず、相手方には推定相続人の廃除事由が存するものである』(熊本家審昭和54年3月29日)

05 まとめ

以上、相続権の剥奪を認める相続欠格と相続廃除という制度の説明となります。

遺言書が発見された場合に、その内容が自分にとって不利であるから遺言書の存在を他の相続人に伝えなければ、欠格事由にあたる場合があります。また、実家に寄り付かず、親の面倒を一切見ない一方で、金の無心だけを繰り返すような場合、その程度によっては廃除事由が認められる可能性もあります。

殺人や暴行のように、被相続人の生命や身体を直接侵害するような行為でなくとも、民事上の制裁を課すべき行為については、相続権が剥奪される可能性がありますので、自身の言動に欠格事由や廃除事由に当たる行為がないかを確認するとともに、他の相続人の言動についても、これらの事由がないか確認しておくことも重要です

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