法律コラム

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争続を防ぐ「遺言」とその種類

はじめに

争続(相続紛争)を防止するための最善の対策は、遺言を作成することに尽きます。そして、公正証書の形式で、内容にも配慮して作成すれば、現在発生している多くの争続は防げていたと考えられます。

そこで今回は、争続を防ぐための遺言とその作成形式について説明していきます。

01 自筆証書遺言

遺言は、個人(遺言者)が死後に主に自己の財産(遺産、相続財産)に関して、これを誰にどのように取得させるかについて意思を表示する意思表示(単独行為)です。

自筆証書遺言は、遺言者が単独で(他者の関与なく)作成できる遺言です。

ただし、遺言も法律行為である以上、遺言者に遺言能力(自己が行う遺言の意味を理解する能力)が必要です(民法963条)。認知症などの理由により遺言能力がない場合には、形式が整っていても無効です。ただし、その立証が困難である場合が多いことも事実です。

有効に遺言を作成するためには、遺言者が「全文」「日付」「氏名」を自書し、押印する必要があります(民法968条1項)。

加除、訂正する場合にも、その場所を指示し、変更した旨を付記して署名し、かつ、その変更の場所に押印する必要があります(民法968条3項)。

このような形式的要件が厳格に定められている理由は、遺言者の真意を明らかにし、第三者による偽造・改変が行われていないことを確保するためで、特に自筆証書遺言については、その作成時に公証人のような中立の第三者が関与しておらず、かつ、効力が発生した段階では遺言者は亡くなっており、その真意を確認する方法がないためです。

また、遺言はいつでも撤回可能であり(民法1022条)、遺言書を破棄したり(民法1024条)、過去の遺言に抵触する新たな遺言をした場合(民法1023条1項)などには、撤回があったものとみなされます。

変更については、例えば遺言中に二重線が引かれていても、上記の変更の要件を欠く場合には、削除の効力が生じないため、二重線が引かれた元の文言に従った遺言が効力を有します。

これに対して、全文に赤の斜線を引いた場合には、判例は、破棄(民法1024条)に当たるとし、元の文言が読める場合にも、撤回の効力が発生すると判示しています。

【判例】
『本件のように赤色のボールペンで遺言書の文面全体に斜線を引く行為は、その行為の有する一般的な意味に照らして、その遺言書の全体を不要のものとし、そこに記載された遺言の全ての効力を失わせる意思の表れとみるのが相当であるから、その行為の効力について、一部の抹消の場合と同様に判断することはできない。
以上によれば、本件遺言書に故意に本件斜線を引く行為は、民法1024条前段所定の「故意に遺言書を破棄したとき」に該当するというべきであり、これによりAは本件遺言を撤回したものとみなされることになる。したがって、本件遺言は、効力を有しない』(最判平成27年11月20日民集第69巻7号2021頁)。

なお、指印は押印に該当します(最判平成1年2月16日)。また、遺言自体の押印は遺言書を入れた封筒の封じ目に押印されたものでも、押印の要件を満たします(最判平成6年6月24日)。

02 公正証書遺言

公証人の作成する公正証書を用いて行う遺言です。

①証人が2人立ち合い、②遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授し、③公証人が遺言者の後述を筆記し、遺言者及び証人に読み聞かせ又は閲覧させ、④遺言者及び証人が筆記の正確なことを承認し、各自、署名・押印し、⑤公証人が、この手続きに則って作ったものであることを付記して署名押印することにより完成します(民法969条)。

なお、遺言者が署名できない場合、遺言者が口をきけない場合、耳が聞こえない場合について、それぞれ、特則があります(民法969条4号但書、969条の2)。

また、未成年、推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族等は、証人になることはできません(民法974条)。

なお、公証人は法務大臣の任命する公務員で(公証人法11条)、中立の第三者であり、公正証書を作成するにあたり本人の意思確認を行っていることが前提ですので、公証人の下で作成された公正証書遺言の効力が否定されることは例外といえます。もっとも、稀に公正証書遺言が無効であるとされる場合があります。

【判例】
『訴外Dが本件公正証書による遺言をするについて、立会証人である訴外Eは、すでに遺言内容の筆記が終つた段階から立会つたものであり、その後公証人が右筆記内容を読み聞かせたのに対し、右遺言者はただうなづくのみであつて、口授があつたとはいえず、右立会証人は右遺言者の真意を十分に確認することができなかつたというのであるから、本件公正証書による遺言を民法九六九条所定の方式に反し無効である』(最判昭和52年6月14日)

03 秘密証書遺言

秘密証書遺言は、遺言者が遺言内容を秘匿して遺言したい場合に用いることができます。公正証書遺言は公証人及び証人が内容を知ることができますし、自筆証書遺言は遺言者単独で作成し、これにより内容を秘匿することも可能ですが、遺言の存在を秘匿すると、相続開始時に、遺言書が発見されないリスクがあります。

秘密証書遺言の要件は、①遺言者が、その証書に署名し、印を押すこと、②遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること。③遺言者が、公証人一人及び証人二人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること、④公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名し、印を押すこと、です(民法970条1項)。

ただ、秘密証書遺言が作成されるケースは少なく、実務上でもほとんど目にすることはありません。

04 遺言の確認方法

自筆証書遺言及び秘密証書遺言は、遺言者又は遺言者の委託を受けた者が保管していることが通例です。秘密証書遺言は、遺言を行ったこと自体は、家族などに知られているのではないかと思いますので、「ある」ことを前提に探すことができますが、自筆証書遺言は「あるかないかわからない」状態で探すことになり、発見できない場合があります。

また、遺言者が弁護士等に遺言書を預けている場合もありますが、遺言後に疎遠になると、弁護士等が遺言者の死亡を把握できない場合もありますので、保管を委託した弁護士との間では、定期的な連絡等のルールを定めておくのがよいと思われます。

なお、公正証書遺言は公証役場で保管されており、昭和64年1月1日以後に作成されたものについては、氏名、生年月日、作成日等の情報がデータベース化されているため、最寄りの公証役場で「遺言書検索システム」を用いて遺言の有無を検索することができます。また、秘密証書遺言も「遺言検索システム」により作成したこと自体は確認できますが、遺言書そのものは公証役場に保管されていないため、何とか探し出すほかありません。

05 遺言検認

公正証書遺言以外の遺言書を発見した場合、相続開始後、家庭裁判所で検認の請求をする必要があります(民法1004条1項、2項)。封印されている場合には、検認手続き前に開封することはできません(同条3項)。

検認とは、遺言の存在、内容、その存在状況を確認及び固定しておくことで、検認以降の偽造を防止し、これにより可能な限り将来の紛争を予防するための手続です。ただ、検認手続を行わなかったことによって、遺言の効力が失われるわけではありません。

06 遺言執行

遺言執行とは、遺言の内容を実現することです。

遺言執行者は、遺言者が遺言で指定するか、遺言で指定がない場合には利害関係人の請求により家庭裁判所が選任することができます(民法1010条)。

実際には、遺言により指定するのがほとんどで、家庭裁判所で遺言執行者を選任するケースは非常に少ないと思われます。

なお、遺言執行者しかできない事項としては、遺言による認知(民法781条2項)、遺言による相続人の廃除(民法893条)、一般財団法人設立のための定款作成(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律152条2項)などがあります。

07 遺言執行者の業務

遺言執行者は、遺言の内容を実現するために相続財産の管理その他必要な一切の行為を行う権利義務を有し(民法1012条1項)、その行為は、相続人に対して直接に効力を生じます(民法1015条)。相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができません(民法1013条)。

遺言執行者は、まず、相続財産の目録を作成して、相続人に交付する必要があります(民1011)。

遺言がある場合には、多くの場合、「相続させる」遺言が行われます。「相続させる」遺言というのは、特定の財産について、特定の相続人に「相続させる」旨を遺言するもので、この遺言の性質は、遺産分割方法の指定(民908)と解されています(最判平成3年4月19日)。

なお、従前は、不動産についての相続させる遺産がある場合、当該相続人は自ら単独で登記を行うことができるため(最判平成7年1月24日)、遺言執行の余地がないと解されていましたが、相続法改正により、遺言執行者も、単独で、相続登記を申請することができるようになりました(民法1014条2項)。

08 遺言執行者の解任

遺言執行者に、その任務を怠ったときその他正当な事由があるときは、利害関係人は、その解任を家庭裁判所に請求することができます(民法1019条1項)。

解任事由としては、遺言執行者に任務懈怠(相続人から求めがったにもかかわらず財産目録を作成・交付しない、事務処理の報告をしないなど)があった場合のほか、特定の共同相続人のみに偏した行動をするなど「遺言執行者としての公平性及び信頼性に疑問を懐かせる」(大阪高決平成17年11月9日)場合には、解任すべき正当な事由があるとされています。

09 遺言執行者の報酬

遺言執行者の報酬は、遺言で定めるか、遺言で定めがない場合には家庭裁判所が定めることにより、報酬を受領することができます(民法1018条1項)。

なお、弁護士が遺言執行者になる場合は、旧弁護士報酬基準に従い、以下の金額を前提にすることが多いと思われます。

 【経済的な利益の額(執行対象財産の額)】
    ・300万円以下の場合 … 30万円
    ・300万円を超え3000万円以下の場合 … 2%+24万円
    ・3000万円を超え3億円以下の場合 … 1%+54万円
    ・3億円を超える場合 … 0.5%+204万円

10 相続法改正と遺言

2018年7月の民法改正により、2019年1月13日より、自筆証書遺言に添付する財産目録について、全文を自書する必要がなくなりました。財産目録まで自書することは遺言者の負担が大きく、遺言作成のハードルになっていたところを解消するための改正といえます。これにより、自筆証書遺言は作成しやすくなりました。ただし、その場合でも財産目録の各ページに署名・押印する必要がありますので、実際に作成を検討する前には、専門家に相談することをお勧めします。

また、自筆証書遺言について、法務局で保管する制度も創設されました(法務局における遺言書の保管等に関する法律)。この制度の利用により、自筆証書遺言を紛失したり、破棄されたりするおそれがなくなりました。また、相続人は法務局に遺言の存否を確認することができるようになりましたし、検認の手続を受ける必要もありません。2020年7月10日より、利用することができます。

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