特別受益・寄与分の時的限界と相続登記の義務化
遺産相続の基礎知識
2023/10/20
遺産分割協議は、相続人全員が合意しないと成立しません。しかし、遺産分割協議の当事者となり、相続人間の紛争に巻き込まれることを望まない相続人もいます。
そのような場合、相続放棄、相続分の譲渡、相続分の放棄をすることで、遺産分割協議の当事者から脱退することが可能です。
そこで今回は、相続放棄と相続分の譲渡と相続分の放棄の異同について説明したいと思います。
相続放棄とは、被相続人の権利や義務を一切受け継がないことをいい、家庭裁判所に申述する方法により行います。
相続放棄をすると、最初から相続人ではなかったことになり、遺産分割協議の当事者になる必要はありませんので、遺産分割協議の当事者から離脱することができます。
ただし、相続放棄をするためには、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内にしなければいけません。この期間を「熟慮期間」といいます。熟慮期間経過後は、原則として相続放棄ができなくなってしまいますので、注意が必要です。
もっとも、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」なので、必ずしも、相続が発生してから3か月以内、というわけではありません。
被相続人と疎遠になっていたため亡くなったことを知らなかったという場合もありますし、相続すべき財産があるとは知らなかったという場合もあります。そのような場合は、相続の発生や相続財産があると知った時から熟慮期間が起算されます。
また、先順位者の相続放棄により、後順位者が相続人になったことを知った場合も、そこから熟慮期間が起算されます。
例えば、債務を残して亡くなったAの子ども(第1順位)が相続放棄をしたため、債権者からの通知により、Aの母(第2順位)が、自分が相続人になったことを知った場合などです。
相続分の譲渡とは、相続人が持っていた遺産に対する相続割合を、譲受人に移転することです。特定の財産が移転するのではなく、相続人としての地位を譲渡することになります。そのため、この場合の「遺産」には、プラスの財産だけではなくマイナスの財産も含む、というのが判例の考え方です。
理論上は、相続人ではない第三者に対し、相続分の譲渡をすることもできますが、実務上は、他の相続人に相続分を譲渡するケースがほとんどではないかと思います。
相続分の譲渡は、遺産分割協議から脱退するために無償で譲渡する場合や、相続人の数が多く、スムーズに手続を行うために誰かに相続分を集める目的で、有償で譲渡する場合などがあります。
譲受人が他の相続人の場合、譲渡人の相続分だけ譲受人の相続割合が増えることになります。そして、それ以後は、譲渡人を遺産分割協議の当事者から除いて、遺産分割協議を行うことができるようになります。
相続放棄は熟慮期間内に行う必要がありますが、相続分の譲渡は、いつまでに行わなければいけないという時間的制約はありません。遺産分割協議が成立していない限り、いつでも行うことができます。また、家庭裁判所の手続も不要です。
そのため、いったん遺産分割協議に参加してみたものの、やっぱり相続人間でもめてしまい、財産はいらないからもめ事から離脱したい、というような場合でも行えます。
相続分の譲渡は、通常、「相続分譲渡証書」に譲渡人が署名及び実印で押印し、譲渡人の印鑑証明書と一緒に、譲受人に交付します。そのうえで、譲受人が署名押印して、相続手続を行います。
「相続分譲渡証書」に記載すべき内容の一例は、以下のとおりです。
【記載例】
『甲は、乙に対し、本日、被相続人A(令和3年●月●日死亡、本籍:東京都中央区●●番地)の相続に関する相続分全部を無償で譲渡し、乙はこれを譲り受けた。』
これに、日付と、甲(譲受人)と乙(譲渡人)の署名捺印(甲は実印)をすれば、手続上の支障はありません。なお、相続分の譲渡をした場合、以後、協議や調停に参加する不要はなくなります。
【参照】
裁判所ホームページ:「相続分譲渡について(説明書)」
相続分の放棄とは、相続人が持っていた遺産に対する相続割合を放棄する、というものです。民法上、相続分の放棄に関する規定はありませんが、実務上、行うことができるとされています。もっとも、相続分の放棄は、家庭裁判所に対する意思表示に過ぎないと解されているため、裁判外の遺産分割の場合には、必ずしも遺産分割協議から離脱できるわけではないことに注意が必要です。
相続分の譲渡は、特定の譲受人に対し譲渡人の相続割合を移転させるものであるのに対し、相続分の放棄は、放棄者が有していた相続割合を、他の相続人が、その相続割合に応じて取得することになります。
例えば、父の相続で、子であるABCの3人が相続人の場合、相続分は各1/3となります。このとき、AがBに相続分の譲渡をすると、それ以降、Bが2/3(当初の相続分1/3+譲渡を受けた相続分1/3)の相続分を有し、Cはそのまま1/3の相続分となります。
これに対し、Aが相続分を放棄した場合、Aの相続分1/3をBCが各相続割合(各1/3なので1:1)で取得することになります。その結果、BCそれぞれが1/2(当初の相続分1/3(2/6)+放棄により取得した相続分1/6(1/3×1/2))の相続分を有することになります。
相続放棄は、相続財産がいらない、遺産分割の当事者から脱退したい、などの動機を持つものの、誰か特定の相続人に譲渡するということには抵抗がある、という場合に選択されることがあります。しかし、実務的には、相続分の放棄が行われるケースはあまり多くないと思います。
相続分の放棄は、通常、「相続分放棄証書」に放棄者が署名及び実印で押印し作成します。
調停の場合、裁判所に相続分放棄証書と印鑑証明書を提出すれば、調停当事者から離脱することができます。また、協議段階の場合は、他の相続人から遺産分割協議の申入れがあった場合に、その相続人に対し、相続分の放棄をする旨と、相続分放棄証書及び印鑑証明書を交付すれば、遺産分割協議の当事者から離脱することができます。
「相続分放棄証書」に記載すべき内容の一例は、以下のとおりです。
【記載例】
『私は、本日、被相続人甲(令和3年●月●日死亡、本籍:東京都中央区●●番地)の相続に関する相続分全部を放棄します。』
これに、日付を記載し、放棄者の署名捺印(実印)をすれば、手続上の支障はありません。
【参照】
裁判所ホームページ:「相続分放棄について(説明書)」
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