法律コラム

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遺留分対策と養子縁組

事例|次男には遺産を一切相続させたくないと望んでいるケース

私は現在75歳です。妻には3年前に先立たれ、今は、長男家族(長男とその妻、孫2人)と同居しています。
子供は長男と次男の2人で、私の事業は長男が継いでくれています。

次男は、もともと学生時代から私たち両親や長男との折り合いが悪く、結婚して家を出た後30年以上は没交渉でしたが、3年前に妻が亡くなった時に突然私たちの前に現れました。私と長男で、妻の相続を辞退して欲しいと次男を説得しましたが、次男は応じず妻の相続権を強く主張したため、結局、法定相続分に応じた現金を渡して納得してもらいました。

現在、長男家族と同居しており、長男の妻や孫とは本当にいい関係を築いて生活をしていますので、私の財産については、すべて長男家族に残してあげたいと考えています。次男には残したくありません。

次男にも遺留分があるということは知っていますが、次男に一切相続をさせない方法、それが無理だとしてもできるだけ相続させない方法はないのでしょうか。

 ※架空の事例です

はじめに

今回のご相談者には2人の子どもがいますが、子どもには「法定相続分」があるので、
何もしなければ2人に等分に遺産が相続されます。
そこで、次男に遺産を相続させたくないのであれば、遺言書を作成する必要があります。

もっとも、子どもには遺留分が認められ、この遺留分については遺言書でも剥奪することができません。
そこで、遺留分対策として、養子縁組の活用をおすすめいたします。

それでは以下で、詳しく見ていきましょう。

01 遺言と遺留分

長男に「すべての遺産を相続させる」旨の遺言書を作成する

人が亡くなったとき、生前に何の対策もしていなければ法定相続分に従って遺産が相続されます。法定相続分とは、民法の定める各法定相続人の相続割合です。
子どもが2人いる場合、それぞれの子どもに2分の1ずつの法定相続分が認められるので、本件のように長男と次男がいる場合には、それぞれが遺産の2分の1ずつを相続するのが原則です。

法定相続分と異なる割合で遺産を相続させたい場合には「遺言書」を作成する必要があります。遺言書によって相続割合や相続方法を指定すると、その内容が法定相続に優先して適用されるからです。

本件でも「長男にすべての遺産を相続させる」と遺言書を作成しておけば、原則として、長男がすべての遺産を相続できます。

遺留分には注意が必要

もっとも、遺言書を作成してもそれだけでは万全とはいえません。なぜなら、次男には遺留分が認められるからです。

遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に保障される最低限度の相続割合です。これは、遺言書によっても奪うことはできません。

たとえば、本件では次男に4分の1(遺留分割合2分の1×法定相続分2分の1)の遺留分が認められます。そのため、「長男にすべての遺産を相続させる」との遺言書を作成しても、父が亡くなった後に、次男から長男に対して「遺留分侵害額請求」が行われる可能性があります。そうなると、長男は次男に対し、遺産の4分の1に相当するお金を支払わなければならず、結局、次男に遺産を一切相続させない、ということはできなくなります。

このように、遺言書を作成しただけで、次男に遺産を相続させないことを実現できるわけではありません。

遺留分放棄のハードルは高い?

実は法定相続人の遺留分は、生前に放棄できます。次男が自らの意思で遺留分を放棄してくれれば、次男は将来、長男へ遺留分侵害額請求をできなくなります。

ただし、生前に遺留分を放棄するには、家庭裁判所の許可が必要です。その際には、以下のような要件を満たさなければいけないとされています。

遺留分放棄の必要性や合理性

生前に遺留分を放棄する必要性や合理的な理由などが判断されます。
たとえば、長男へのスムーズな事業承継のために必要である、次男にはすでに十分な支援を行った、などの事情です。

十分な代償が支払われていること

また、遺留分放棄を認めるか否かの判断に際しては、放棄者に対する代償の支払いが行われているかが重視されます。
たとえば、遺留分に相当するお金など遺留分放棄の代償が支払われていないと、家裁では遺留分放棄が許可されないのが一般的です。

放棄者の自由意思に基づくこと

さらに、当然のことですが、遺留分放棄は権利者の自由意思にもとづいて行われる必要があります。被相続人が強要した場合、遺留分放棄は許可されません。相続人予定者が自ら家庭裁判所に申し立てて遺留分放棄の意思を表示することが必要です。

本件でも、次男自身に遺留分放棄をする意思がないのであれば、無理矢理放棄させることはできません。ご相談者に代償金の支払い意思もないでしょうから、遺留分対策としては、別の手段を検討した方がよいでしょう。

02 遺留分対策としての養子縁組

遺留分対策としては、養子縁組が有効です。養子縁組をすると、法定相続人の数が増えて、その分、次男の遺留分額を下げられるからです。

養子縁組とは

養子縁組とは、お互いの意思によって法律上の親子関係を作ることです。市町村役場へ「縁組届」を提出すれば、実の親子でない人同士が法律上の親子になれます。養子は遺産相続において実子と同じ立場になるので、法定相続分や遺留分が認められます。

遺留分の割合は、法定相続人の構成や人数によって決まります。子どもが相続人になる場合のそれぞれの遺留分割合は「2分の1×法定相続分」です。養子縁組によって子どもの人数が増えると、その分法定相続分が小さくなるので、相続人それぞれの遺留分の割合も小さくなるわけです。

養子縁組する場合としない場合の遺留分割合

本件でも、相続人が長男と次男の2人だけの場合、長男と次男それぞれの遺留分割合は「2分の1×2分の1=4分の1」となります。一方、1人を養子縁組して子どもが3人に増えると、次男の遺留分割合は「2分の1×3分の1=6分の1」に減ります。

2人を養子にして子どもが4人になると、次男の遺留分割合は「2分の1×4分の1=8分の1」になり、もともとの半分にまで減らすことができます。

養子縁組により、遺留分侵害額が減額される

遺留分割合が減ると、将来長男が次男へ支払う必要のある遺留分侵害額も減ることになります。

たとえば遺産が4000万円あって長男と次男だけが相続人の場合、対策前は、長男は次男へ4分の1である1000万円の遺留分侵害額を支払わなければいけません。

一方、養子が2人いて法定相続人が4人となる場合、長男は次男に対し、遺産の8分の1である500万円を遺留分侵害額として支払えば済むことになります。

このように、養子縁組を活用し、遺留分割合を減らすことで遺留分侵害額も減らすことができるので、遺留分対策として有効といえます。

養子縁組の注意点

なお、遺留分対策として養子縁組を活用する場合、以下の点には注意が必要です。

養子の数が多すぎると無効になる可能性がある

養子縁組するには、親と子の双方において縁組意思が必要となります。縁組意思とは、お互いに親子と認められる関係を作ろうという意思です。

次男の遺留分侵害額請求を妨害するために、あまりにも多くの人と養子縁組をしてしまうと、次男から、その全部または一部について「そもそも縁組意思がない」と主張されて、養子縁組が無効と判断されてしまう可能性があります。

養子にも遺留分が認められることになる

養子縁組により、実子と同様、養子にも遺留分が認められるという点にも注意が必要です。たとえば「長男にすべての遺産を相続させる」旨の遺言書を作成した場合、次男の遺留分侵害額を減らせたとしても、養子から長男に遺留分侵害額請求をされてしまうと、結局、長男は遺留分侵害額の負担が大きくなってしまいます。

養子縁組を活用するときには、以上のようなリスクも理解した上で進めましょう。

03 養子縁組と税務

養子が遺留分侵害額請求をしないのであれば、養子縁組は遺留分対策として有効な方法といえます。法律上、養子の人数は制限はありませんので、無効とされない範囲で養子縁組の活用をご検討ください。

もっとも、税務では養子の数に制限がありますので、注意が必要です。

養子と相続税の基礎控除

養子がいる場合、相続税の計算時に実子と異なる扱いとなるので、注意が必要です。

相続税には「基礎控除」が認められ、基礎控除の範囲内であれば相続税がかかりません。そして、基本的には「3,000万円+法定相続人数×600万円」までの金額が基礎控除として控除されます。子どもが増えるとその分、基礎控除の額が上がり、相続税の負担が生じにくくなります。

もっとも、相続税法では、基礎控除額の計算における養子の人数について、以下のとおりの上限を設定しています。

 ●被相続人に実子がいる場合には養子1人まで
 ●実子がいない場合には養子2人まで

本件ではすでに実子が2人いるので、相続税の基礎控除で考慮できる養子の数は1人までとなります。

誰を養子にすべきか

それでは本件では、誰を養子にするのがよいのでしょうか。養子による長男への遺留分請求を防止するには、長男に近しい親族を養子にするのがよいと思いますので、候補となるのは長男の妻、もしくは孫(長男の子ども)です。

長男の妻を養子にした場合、将来妻が死亡したときに孫への相続が起こり、再度相続税がかかる場合があります。また、長男と妻が離婚する可能性もないとはいえません。そういったリスクを考えると、はじめから孫を養子にしておくのがよいのではないかと思います。

なお、次男の遺留分割合を減らすことを最優先に考えるのであれば、妻と孫2人の全員を養子にする、という選択も考えられます。しかしその場合、先程説明したとおり相続税の基礎控除額については、養子1人として計算することになりますので注意が必要です。

税務上の負担等も考慮しながら、遺留分対策の具体的内容を検討されてみてはいかがでしょうか。

まとめ

 POINT 01 遺留分対策として養子縁組は有効な方法

 POINT 02 養子縁組には縁組意思が必要なため、あまりにも多数の養子縁組は無効とされる可能性あり

 POINT 03 相続税の基礎控除額を計算する際に考慮できる相続人の数には制限がある

いかがでしたか。遺言書によっても遺留分を奪うことはできませんが、養子縁組を活用することにより、各相続人の法定相続分を減らし遺留分割合も減らすことができるため、養子縁組は遺留分対策として有効な方法といえます。

事例のケースでは、長男家族と同居し良好な関係性を構築しているという事情がありますので、長男の妻と孫2人の全員を養子縁組としたとしても、すべて縁組意思が肯定される可能性も十分あるでしょう。そうすると、相続人の数は5人(長男、次男、長男妻、孫2人)となり、それぞれの遺留分割合は10分の1まで減りますので、当初の4分の1に比べて、次男の遺留分対策ということにはなるでしょう。

もっとも、相続税の基礎控除額を計算する際には養子は1名と考えることになりますので、税務の観点では注意が必要です。

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