法律コラム

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預金の使い込みが発覚した場合の対処法は?

事例|認知症だった母の預金を同居の姉が勝手に使い込んでしまったケース

母が亡くなりました。父は既に他界しているので、相続人は兄(長男)と姉(長女)と私(次女)の3人です。

姉は、離婚後に母と同居していましたが、その姉から、母の葬儀後に、「お母さんの遺産は預金の1000万円だけよ」と言われました。

母は、父の遺産をすべて相続し、2000万円近い死亡保険金も受け取っていましたし、遺族年金も受給していました。施設に入っていたわけでもないですし、預金が1000万円しかないということは、正直、信じられません。

その後、姉から預金が1000万円という残高証明書を見せられましが、全然納得できなかったので、私の方でも金融機関から取引履歴を取り寄せてみました。すると、母が亡くなる数年前から、1回100万円近い金額が、合計15回ほど引き出されていることが分かったのです。

母は、晩年認知症が進み、お金のことはすべて姉が管理していたため、姉が母の口座から合計1500万円引き出したことは間違いありません。まったく納得できませんが、このような場合、私は姉に対して、何か主張できないのでしょうか?

架空の事例です

はじめに

相続人が被相続人の預金を使い込んだ場合、相続人間で合意ができればその分も遺産分割の対象とし、合意ができなければ、遺産分割とは別に、各相続人が使い込んだ者に対し、不当利得返還請求または損害賠償請求を行うことになります。

それでは以下で詳しく見ていきましょう。

01 遺産分割の対象財産は?

「遺産分割」とは、被相続人の死亡によって共同相続人の共有(遺産共有といいます。)に属することになった個々の財産について、その共有関係を解消して、各相続人の単独所有又は一定の共有関係にする手続です。

つまり、相続人のうち、誰がどの遺産を取得するかを決める手続です。

もっとも、死亡時にあった被相続人の財産でも、遺産分割を行う際に現に存在しない財産は、遺産分割の対象財産とはなりません。これは、遺産分割の時に存在していない以上、実際に分割を行うことができないから、という考え方に基づきます。

そのため、遺産分割の対象となる財産は、相続開始時に存在し、かつ、分割時にも存在する未分割の遺産となります。

そうすると、事例のケースで、例えば姉が預金を使い込んでいたとしても、母の生前に使い込んだ預金は相続開始時に存在しませんし、また、母の死亡後に使い込んだ預金も遺産分割時に存在しないため、結局、使い込まれた預金については、母の遺産分割の対象財産とはなりません。

02 家庭裁判所での解決は難しい?

使い込まれた預金であっても、相続人全員が合意すれば、その預金額(もしくは同額の現金)を遺産分割の対象財産とする取扱いが、実務上認められています。

しかし、預金を引き出したこと自体が争われるケースや、被相続人から引き出しを依頼されたなどと、自身の使い込みを否定する相続人は少なくありません。

このような場合、相続人間で当該預金を遺産分割の対象財産とする合意をすることは難しく、そうなると、遺産分割の対象財産とならない以上、家庭裁判所における遺産分割調停や審判によっては使い込みの問題を解決できません。

その場合、別の法的手続により解決をせざるを得ないことになります。

03 不当利得返還請求または損害賠償請求

預金の使い込みについては、各相続人から使い込んだ相続人に対し、不当利得返還請求または損害賠償請求を行うことにより解決を図ることになりますが、話し合いでの解決が難しい場合、請求額に応じて、簡易裁判所もしくは地方裁判所に訴訟を提起することになります。

そして、使い込みの時期が相続開始の前後いずれかによって、各相続人が主張する法律構成が、以下のとおり若干異なります。

相続開始前の使い込み

被相続人が使い込んだ相続人(処分者)に対し、引き出した預金と同額の不当利得返還請求権ないし不法行為の損害賠償請求権を取得します。

そして、相続開始により、他の法定相続人が、自己の法定相続分に応じて分割された同債権を取得することになります。

相続開始後の使い込み

相続発生時に存在した預金が無断で引き出された(使い込んだ)場合、他の法定相続人が処分者に対し、使い込んだ金額に対する自己の法定相続分に応じた割合を、不当利得返還請求ないし不法行為の損害賠償請求することができます。

04 相続法の改正(遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の取扱いの規律)

なお、相続法の改正により、相続発生後遺産分割前の使い込みについては、処分相続人以外が同意することにより、使い込まれた相続財産が遺産分割時に存在するものとみなすことができ、それにより、遺産分割の対象財産とすることができるようになりました(民法906条の2の第2項)。

もっとも、処分相続人以外の相続人全員の同意が得られない場合には、なお従前のとおり、不当利得返還請求または損害賠償請求により解決を図らなければいけません。また、処分者とされた相続人が自身の引き出しを否定する場合は、遺産分割の前提問題として、その処分された財産も民法906条の2に基づく遺産分割の対象に含まれることの確認を求める民事訴訟により解決を図ることも考えられます。

まとめ

 POINT 01 使い込まれた預金も、相続人間で合意できれば遺産分割の対象にできる

 POINT 02 相続人間で合意がなければ、不当利得返還請求または損害賠償請求で解決を図る

 POINT 03 相続法改正により、処分相続人以外の同意があれば遺産分割の対象となる

いかがでしたか。本来遺産となるべき預金が使い込まれた場合については、遺産分割とは別に、不当利得返還請求または損害賠償請求により、相続人間の不公平を実質的に是正していくことになります。

事例のケースでは、長女による1500万円の使い込みが認められる場合、次女は長女に対し、自己の法定相続分(3分の1)に応じた500万円を不当利得として請求することができ、長女がこれに応じなければ、地方裁判所に不当利得返還請求訴訟を提起することになります。長男が長女に対し請求する場合も同様です。

なお、使い込み返還請求では、証拠の有無が極めて重要となります。例えば、事例のケースを前提にすると、長女より、①1500万円の引出しをしていない、②母に頼まれて引き出したもので全額を母に渡した、③母に代わって引き出し、全額を母のために使っている、などという反論も予想されます。

それぞれの主張ごとに、どちらが何を立証すべきかは異なりますので、詳細は弁護士等の専門家に相談されることをお勧めしますが、いずれにしても、主張を裏付ける証拠が極めて重要ですので、できる限り証拠を集めておくようにしましょう。

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