法律コラム

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遺産分割協議成立後に印鑑証明書を交付してくれない場合の対処法

事例|協議書だけ返送され、印鑑証明書は返送されなかったケース

兄の相続です。兄は生涯独身で、両親も既に亡くなっているので、相続人は、私と妹と弟の3人です。

兄には、遺産として自宅マンションと預金があり、兄弟3人で話し合った結果、遺産は私がすべて取得し、妹と弟には、法定相続分(3分の1)に相当する代償金を支払うことで合意し、遺産分割協議書を作成することにしました。

協議書は、登記をお願いする司法書士に作成してもらい、妹と弟には、持ち回りで署名捺印をお願いしました。その際に、印鑑証明書1通も同封をお願いしていたのですが、弟からの郵便には、印鑑証明書が同封されていませんでした。

その後、弟に何度も印鑑証明書を郵送してくれるようお願いしているのですが、一向に対応してもらえず、最近では、どういう理由か分かりませんが、「印鑑証明書を渡す気はないよ!」と言われてしまっており、相続登記や預金の解約手続ができていません。。

相続人間で合意し、協議書の署名捺印まではできているのですが、このままでは相続手続を進められません。何か対処法はないのでしょうか。

架空の事例です

はじめに

遺産分割協議が成立し、各相続人の署名捺印まで済んでいるのに、特定の相続人が印鑑証明書を交付してくれない場合は、その相続人を被告として、証書真否確認訴訟を提起し、判決書を印鑑証明書の代わりに添付して相続手続を行うことが考えられます。

それでは以下で、詳しく見ていきましょう。

01 遺産分割協議では相続人全員の合意が必要

遺産分割協議は、相続人全員が合意しないと成立しません。いかに相続人間にとって公平な遺産分割案であっても、誰か1人でも納得しなければ、遺産分割ができないことになります。

その場合、遺産分割調停を申し立て、裁判所の関与のもとで改めて話し合いを行います。そして、調停でも話し合いがつかなければ審判手続に移行し、裁判所の審判により、ようやく、遺産分割ができることになります。

02 相続手続には印鑑証明書が必要

遺産分割協議は、口頭によっても成立します。必ず、遺産分割協議書を作成しないと成立しない、というわけではありません。

もっとも、口頭だけの場合、後日になって、ある相続人に「遺産分割協議は成立していない!」と言って争われてしまうと、遺産分割協議の成立を客観的に明らかにすることが難しいため、裁判所において、遺産分割協議の成立が認められない可能性もあります。

そこで、遺産分割協議が成立したことや、その内容について客観的に明らかにしておくためにも、遺産分割協議書は必ず作成しておいた方がよいでしょう

遺産分割協議書の署名欄には、必ず実印を押印しなければいけないわけではありません。もっとも、相続登記や預金の解約手続を行う場合は、遺産分割協議書への実印での押印が必要になりますので、通常は、実印を押印しておきます。

そして、押印した印鑑が実印であることを明らかにするために、印鑑証明書の提出も必要となります。

03 印鑑証明書に代わる判決書

事例のように、遺産分割協議が成立し、遺産分割協議書は作成できたけれども印鑑証明書を渡してもらえない、という場合も起こり得ます。その場合、どのように対応すればよいのでしょうか。

そもそも、実印での押印及び印鑑証明書を添付する趣旨は、実印で押印されていることをもって、相続人の意思に基づき協議書が真正に成立していることを担保する点にあります。そのため、協議書が真正に成立していることを別の方法で確認できる場合には、必ずしも印鑑証明書を提出する必要はないことになります。

この点、登記先例(昭和55年11月20日民三6726号民事局第三課長回答)では、遺産分割協議書に基づく相続登記の手続に協力しない相続人がいる場合には、登記手続上、同相続人の印鑑登録証明書に代えて、同人に対する遺産分割協議書が真正に成立したことの確認判決を添付書類とすることで、単独で相続登記を行うことが可能である、とされています。

また、裁判例(東京高裁昭和56年11月16日判決)でも、相続登記を申請するためにある相続人から印鑑証明書が得られない場合に、これに代えて分割協議書が真正に成立したことを証明する判決を添付するために、遺産分割協議の真否確認の訴えを提起する場合には、確認の利益を有する、と判示されており、遺産分割協議書の真否確認訴訟の判決をもって印鑑証明書に代える方法が認められています。

そこで、印鑑証明書を交付しない相続人がいる場合は、同人を被告として、証書真否確認訴訟を提起し、遺産分割協議書が真正に成立したことを確認する判決書を取得するのがよいでしょう。

まとめ

 POINT 01 相続手続のためには相続人の印鑑証明書が必要

 POINT 02 印鑑証明書を交付しない場合、証書真否確認請求訴訟を提起する

 POINT 03 印鑑証明書の代わりに判決書を添付し、相続手続を行う

いかがでしたか。事例のように、遺産分割協議は成立し、協議書は真正に成立したにもかかわらず、印鑑証明書を交付しない相続人がいる場合、その相続人を被告として証書真否確認訴訟を提起し、認容判決を得られれば、その判決書を印鑑証明書の代わりに添付して、相続手続を進めていくことができます。

多くの場合、訴訟が提起されると印鑑証明書を任意に交付してくるケースが多い印象ですが、訴訟提起後も任意に交付してもらえない場合には、粛々と判決を求めていかざるを得ないと思います。

なお、印鑑証明書を交付しない側の反論としては、遺産分割協議が成立していない、協議の成立に際し錯誤や詐欺があった、という主張などが考えられますが、署名欄に自署し、実印で押印がされている場合に、それらの主張が認められるというケースは限定的であると思われます。

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