法律コラム

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相続発生後の主な手続とその期限

はじめに

相続が発生するということは、同時に故人との別れをも意味し、非常に悲しいものです。しかし、悲しみに浸っている間もなく、相続人は様々な手続き追われることになります。

そこで今回は、相続発生後の主な手続きとその期限について説明したいと思います。

01 死亡届出(7日以内)

ご家族が亡くなった場合、死亡の事実を知った日から7日以内に、死亡届をしなければいけません(戸籍法86条1項)。

死亡届には、死亡の年月日時分及び場所等が記載された死亡診断書または死体検案書を添付しなければいけません(戸籍法86条2項)。死亡診断書は立ち会った医師から交付してもらい、不慮の事故等の場合には死体検案書を交付してもらいます。死亡診断書も死体検案書も同じ書式で、死亡届と一体となって同じ用紙に記載されています。

死亡届は、同居の親族、その他の同居者、家主、地主または家屋もしくは土地の管理人のいずれかが届けなければいけませんが(戸籍法87条1項)、その他の親族や後見人等も届出をすることができます(戸籍法87条2項)。

死亡届の提出先は、死亡地、又は亡くなった方の本籍地か届出人の住所のある市区町村役場です(戸籍法88条1項、25条1項)。

02 相続放棄(3か月以内)

借金も相続する

相続人は、亡くなった方のプラスの財産のみではなく、マイナスの財産(借金)についても相続をすることになります。

民法896条
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

プラスの財産が借金を上回っていればよいですが、中には、借金の方が多いというケースもあります。そのような場合にも必ず相続しなければならないとすれば、あまりにも相続人に酷といえます。

相続放棄の申述は3か月以内

そこで、民法では、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所に申述することで、相続放棄ができると規定しています(民法915条1項本文、938条)。この期間を、相続放棄するか否かを検討する期間ということで「熟慮期間」ということもあります。

熟慮期間の伸長

3か月という熟慮期間は、プラスの財産が借金を上回っているか等の調査のために、十分とはいえません。そこで、必要がある場合には、家庭裁判所に熟慮期間の伸長を申し立てることができます(民法915条1項ただし書)。ただし、その申立て自体は熟慮期間内に行わなければいけません。

熟慮期間経過後の相続放棄

もっとも、熟慮期間が経過してしまった場合でも、特別の事情がある場合には例外的に相続放棄が認められることがあります。

この点について、最高裁は、以下のとおり判示しています。

『熟慮期間は、原則として、相続人が前記の各事実を知った時から起算すべきものであるが、相続人が、右各事実を知った場合であっても、右各事実を知った時から三か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかったのが、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって、相続人において右のように信ずるについて相当な理由があると認められるときには、相続人が前記の各事実を知った時から熟慮期間を起算すべきであるとすることは相当でないものというべきであり、熟慮期間は相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時から起算すべきものと解するのが相当である。』(最判昭和59年4月27日民集 38巻6号698頁)

すなわち、被相続人に相続財産がまったくないと相続人が信じていたような特別の事情がある場合には、相続財産の存在を知った時から熟慮期間が起算されることになり、相続開始から3か月経過後であっても相続放棄が認められる可能性があるのです。

なお、いったん相続放棄が却下されると、その後、相続放棄を主張することができなくなるため、家庭裁判所は、却下すべきことが明らかな場合以外は相続放棄の申述を受理すべきと解されています(東京高決平成22年8月10日)。
そこで、実務上は、熟慮期間が経過したケースであっても、特別の事情を説明した書面を添付することで、相続放棄の申述を受理しているのが現状です。

相続放棄の効果

相続放棄が認められると、初めから相続人とならなかったものとみなされることになるため(民法939条)、借金を相続する必要はなくなります。また、相続人とならなかったものみなされるため、相続放棄をした者に子供がいても、代襲相続されることはありません。

03 準確定申告(4か月以内)

所得税は、毎年1月1日から12月31日までの1年間に生じた所得について計算し、その所得金額に対する税額を算出して翌年の2月16日から3月15日までの間に申告と納税をすることになっています。しかし、年の途中で死亡した場合には、それ以降所得が発生することはないため、その時点で死亡年度の所得計算をして、納税をする必要があります。

そこで、相続人が、被相続人の1月1日から死亡した日までに確定した所得金額及び税額を計算して、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に、所得税の申告をし、納税をしなければいけません。これを準確定申告といいます。

04 相続税の申告(10か月以内)

相続税は、個人が亡くなられた方から相続などによって財産を取得した場合に、その取得した財産に課される税金です。

相続税の申告をする必要がある場合には、被相続人が亡くなった日の翌日から 10 か月以内に、被相続人の住所地を所轄する税務署に相続税の申告書を提出するとともに、納付税額が算出される場合には、納税しなければなりません。

なお、申告書の提出期限に遅れて申告と納税をした場合には、原則として加算税及び延滞税がかかるため、注意が必要です。

05 遺留分侵害額請求(1年以内)

遺留分制度とは、一定の法定相続人に、被相続人の遺産のうち一定割合の承継を法律上保障する制度です(民法1042条以下参照)。

遺留分を侵害された相続人は、受遺者または受贈者に対し、遺留分の侵害額に相当する金銭の支払いを請求することができます(民法1046条)。

遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈のあったことを知った時から1年で、時効により消滅します(民法1048条前段)。

また、遺留分権利者の認識を問わず、相続開始時から10年を経過すれば消滅します(民法1048条後段)。これを、除斥期間といいます。

改正後民法1046条1項
遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。

06 相続税の更正請求(5年10か月)

一度、相続税の申告をしたが、間違えていた、もしくは状況が変わったなどの理由でもう一度相続税申告をやり直して、一度納めた相続税の還付を受けることを「相続税の更正の請求」といいます。なお、相続税の申告のやり直しに伴い追加で相続税の支払いが必要になる場合には「相続税の修正申告」といいます。

相続税の更正の請求はいつでもできるというわけではなく、原則、相続開始(死亡日)から5年10か月以内、つまり相続税の申告期限から5年以内となっています。ただし、特別な事情がある場合にはこの5年という期限によらず、その事由発生から4か月以内という期限になっています。

この特別な事情とは、例えば、未分割の遺産が分割された場合や、遺留分侵害額請求による支払いがあった場合などです。

まとめ

以上が、相続発生後の主な手続きとその期限になります。それぞれに期限があり、期限が経過するとできなくなってしまう手続きやペナルティがある場合もありますので、ご注意ください。

なお、現行法制度上は、相続登記は義務ではなく、申請期限もありませんが、日本全国で所有者不明土地が増えている現状を踏まえ、2021年2月に「相続登記の義務化」に関する法制審議会の答申がなされており、今後、相続人が土地の取得を知ってから3年以内に相続登記をすることが義務化される見通しとなっています。

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