法律コラム

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相続法改正~一部分割の明文化

事例|預金だけを先に遺産分割しておきたいケース

50代男性です。父はだいぶ前に亡くなり、父の財産をすべて相続した母も最近亡くなりました。相続人は私(長男)と妹(長女)の2人だけです。

母の相続財産は都内にある土地1か所(評価額2000万円)と預貯金2000万円です。また妹は、母から現金で1000万円の生前贈与を受けており、妹もそのことは認めていて、そのまま貯金しているそうです。

私も妹も、ひとまず預貯金は1000万円ずつ取得することで合意しているのですが、土地をどう遺産分割するかについては、話がまとまる見込みがありません。

今後、相続税の支払等いろいろとお金もかかりますし、ひとまず預貯金についてだけでも遺産分割を成立させて、口座解約をしたいと思っています。何か良い方法はないでしょうか?

架空の事例です

はじめに

相続法の改正により、以前から裁判例及び実務において認められていた遺産の一部分割が明文で規定されました。もっとも、一部分割により他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合には、一部分割の請求が認められない場合があります。

それでは以下で詳しく見ていきましょう。

01 遺産の一部分割が明文化されました

相続法が改正される前、遺産の一部分割を定めた規定はありませんでした。

しかし、遺産分割事件を早期に解決するためには、その帰属に争いのない遺産については先行して一部分割を行うことが有益であると考えられる場合もあり、実務でも、以下の裁判例で示された一定の要件のもとで一部分割が認められていたため、今回の相続法改正で、以下のとおり、一部分割について明文規定が設けられました。

【裁判例】
『遺産分割において遺産の全部について行うのが相当であるけれども、遺産の範囲に争があつて訴訟が係属しているような場合において、遺産の一部の分割をするとすれば、民法906条の分割基準による適正妥当な分割の実現が不可能となるような場合でない限り、遺産の一部の分割も許されるものと解するのを相当とする』(大阪高判昭和46年12月7日)

【条文】
907条
1 共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。
2 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる。ただし、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその一部の分割については、この限りでない。
3 前項本文の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる。

02 どんなときに一部分割は認められる?

改正相続法は、共同相続人には遺産についての処分権限があることから、いつでも遺産の一部を分離独立させて確定的に分割をすることができる、という原則(907条1項)、また、協議が調わない場合には家庭裁判所に一部分割を請求することができること(同条2項本文)を明文化しました。

しかし、法律関係の安定のためには、やはり一回の遺産分割で遺産全体を分けるのが原則であることから、上記裁判例が示した「一部分割を認める要件」についても明文化されました(907条2項ただし書)。

すなわち、
  ① 遺産の一部を他の部分と分離して分割する合理的な理由があること(必要性の要件
  ② 一部分割をすることによって、全体としての適正な分割を行うために支障が生じないこと(許容性の要件
の2点です。

あえて一部分割をする理由がないのであれば、全部分割をすれば良いだけですから、「相続人において遺産の範囲等で争いはあるが、遺産の一部の分割方法については合意があること」など一部分割をすることの必要性が求められます(①の要件)。

また、遺産分割は「遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、新進の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする」(906条)と定められていますから、特別受益や代償金の額、換価等を検討した結果、一部分割をすることによって最終的に適正な分割を達成しうるという見通しが立たず、他の相続人の利益を害するおそれがある場合には、一部分割の請求は認められません(②の要件)。

たとえば、本件で妹が5000万円の生前贈与を受けており、自宅の購入やこどもの教育資金等で全て使い切ってしまっていたとしましょう。
この場合、遺産総額は合計9000万円(土地2000万円+預貯金2000万円+生前贈与5000万円)で、ご相談者と妹さんの法定相続分は各4500万円となります。
仮に預貯金の一部分割を認め、1000万円ずつ分割してしまうと、妹は既に6000万円(生前贈与5000万円+預貯金1000万円)を取得したことになってしまいます。そして残った遺産は2000万円の土地だけですから、仮にご相談者が後に土地を相続したとしても、ご相談者の取得財産は3000万円(預貯金1000万円+土地2000万円)にしかなりません。

妹さんに1500万円の代償金を支払う資力等がない場合には、本件で預貯金の一部分割を認めてしまうと、全体としての適正な分割に支障が生じることは明らかです。このような場合には、家庭裁判所は一部分割の請求を認めず、全体についての遺産分割調停、審判をすることになると考えられます。

まとめ

 POINT 01 相続人間の協議により、相続人はいつでも遺産の一部について分割することができる

 POINT 02 相続人間の協議が調わない場合は、家庭裁判所に対して、遺産の一部分割の請求ができる

 POINT 03 一部分割は、①一部分割の必要性と、②一部分割により遺産全体の適正な分割を妨げない場合、に認められる

ご相談者のお母様の遺産分割対象財産は5000万円(土地2000万円+預貯金2000万円+妹さんの生前贈与1000万円)ですが、ご相談者と妹さんで預貯金2000万円を1000万円ずつ取得する一部分割について合意ができていますから、一部分割の必要性があると考えられます(①の要件)。

また、ご相談者と妹さんの法定相続分は各2500万円ですから、預貯金の一部分割後のご相談者の法定相続分は1500万円となります(法定相続分2500万円-預貯金一部分割1000万円=1500万円)。

そうすると、ご相談者は残り1500万円分の法定相続分につき、残部遺産である不動産2000万円を取得すること、あるいは不動産を売却して現金を分割すること等の方法によって最終的に遺産全体についての適正な分割が可能と考えられます。また、仮に妹さんが不動産を取得することになった場合でも、妹さんは生前贈与と一部分割で得た預貯金がありますから、ご相談者に対して1500万円の代償金を支払うに十分な資力があると考えられます。

よって、本件では預貯金について一部分割をしても遺産全体についての適正な分割を妨げないと考えられるため、ひとまず預貯金のみを対象に遺産分割協議書を作成し、預貯金の解約をおこなうと良いでしょう。

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