法律コラム

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相続人が多い場合の遺産分割の進め方

事例|兄弟相続で、甥姪含め相続人が8人いるケース

先日、伯父が亡くなりました。伯父は5人兄弟の長男で、生涯独身でしたが、私の父(二男)と叔父(三男)が先に亡くなっており、それぞれ子供が3人ずついたので、伯父の相続人は合計8人います。

私たちの家と伯父の家は隣り合っていたので、伯父とは、ほとんど同居に近いような形で、伯父に何かあれば私たち家族でサポートしていました。実際、伯父のために立て替えて支払っている病院代などもあります。そのような事情も考慮してもらい、遺産分割ができればと思っていたのですが、先日、三男の長男、私にとっては従兄弟から、「早く私の相続分に応じたお金を支払って欲しい」と連絡がありました。

その他の相続人とは何の話もしておらず、また、最近連絡を取ったこともないような関係性の方もいますが、8人も相続人がいる状況で、今後、どのように遺産分割協議を進めていけばよいのでしょうか。

架空の事例です

はじめに

相続人の数が多い場合、1人ひとりの意向を聞きながら協議を進めようとしても、なかなか相続人全員の合意を得ることは難しい場合が多いと思います。そこで、法定相続分に応じた代償分割、つまり、誰か1人が遺産すべてを取得し、他の相続人にはその法定相続分に応じた代償金を支払う、という内容の遺産分割の成立を目指すことが、早期解決につながりやすいと思います。

それでは以下で、詳しく見ていきましょう。

01 遺産分割協議は相続人全員で行わないと無効

遺産分割協議は、相続人全員の合意があって初めて有効に成立します。いかに合理的で公平な遺産分割案であっても、誰か1人でも合意しないと、遺産分割協議を成立させることができません。

例えば、ある相続人が、自分は亡くなった方の面倒を見たので寄与分が認められる、考えているとします。しかし実際は、親族間における扶養義務の範囲内の貢献にとどまるため、相続人がいくら寄与分を主張しても、最終的に裁判所は寄与分を認めません。そうすると、寄与分の主張は早々に諦めてもらい、法定相続分を前提にした議論をするのが合理的ですし、相続人間の公平にも適うといえるでしょう。

もっとも、本人が寄与分の主張を譲らず、法定相続分を前提にした遺産分割案に納得しなければ、法律的な見通しとして寄与分が認められないケースであっても、遺産分割協議を成立させることができません。

このように、いかなる理由であれ、誰か1人でも合意しないと、遺産分割協議を成立させることができません。そして、相続人の数が多ければ多いほど、それぞれに様々な考えがあると思われ、遺産分割協議を成立させることは難しい場合が多いでしょう。

02 遺産分割協議の申入れの際の注意点

相続人ごとに個性があり、遺産分割についてもそれぞれの考え方や価値観がありますので、どのタイミングで、どのように伝えれば、必ず遺産分割協議がうまくまとまる、というセオリーがあるわけではありません。

もっとも、当事務所で取り扱った相続人の数が多い遺産分割のうち、比較的スムーズに遺産分割協議がまとまった案件の進め方の特徴としては、以下の点が挙げられます。

相続人間の公平に適う分割案であることの説明する

まずは、相続人全員に対し、遺産分割協議の申入れの書面を送付します。その際は、各相続人に等しく同じ内容の書面を送っていることを伝えておくと、自分だけに申入れがあるわけではない、ということの安心感を得られると思います。

申入れ書面に記載すべき内容は、もちろん事案ごとに背景事情は異なりますので、事案に即して検討すべきと思いますが、希望する遺産分割案を記載しておいた方が、議論が先に進みやすいと思います。そして、他の相続人の同意を得るためには、なぜその遺産分割案を提案するのか、という点については十分に説明をした方がよいでしょう

この点、特定の相続人のみに有利な遺産分割案ですと、それ以外の相続人の賛同を得ることは難しいように思います。そこで、相続人間の公平という観点から、法定相続分での遺産分割、を提案する、という選択が考えられます。

法定相続分での遺産分割案の提案を受けた場合、「そもそも法律自体がおかしい!」と言って納得しない相続人がいるかもしれませんが、それはおそらく少数派です。多くの相続人は、特に相続人が多い遺産分割のケースでは、「民法が定めている法定相続分ということであれば、しょうがない。それで構わない」ということで、法定相続分での遺産分割案について賛同を得やすいのではないかと思います。

早期解決が必要な理由を説明する

法定相続分での遺産分割案に対し、例えば、他の相続人の特別受益や寄与分の主張をしたい相続人がいる、ということは十分に考えられます。

しかし、特別受益があったか否か、また、寄与分が認められるか否かについて、それぞれに主張や証拠等に基づいた議論を行うとすると、それ相応の時間と労力を要することが多いと思います。

そこで、「なぜ、遺産分割協議を早く成立させた方がよいのか」ということを十分に説明し、各相続人の納得感を得ていくことを目指す、というのがよいでしょう。

早期解決が望ましい理由として、遺産分割協議が成立せずに、遺産共有の状況で起こりうるリスクや不都合を説明することが考えられます。

例えば、遺産が収益物件の場合、賃貸借契約の締結や解約などの管理行為が事実上行えない状況となってしまうということや、仮に当該物件から出火した場合、遺産たる不動産を失うばかりか、出火に伴う損害賠償責任を各相続人がその持分に応じて負担しなければいけない、ということなどを説明し、したがって、早期解決が望ましい、ということを説明すると、一定の説得効果はあるように思います。

遺産分割協議への関与を希望しない場合の選択肢を提示する

なお、遺産の額や相続人の数および自己の法定相続分によっては、遺産分割への関与を望まない相続人もいます。

そのような場合には、例えば、相続放棄、あるいは、相続分の譲渡や相続分の放棄という選択肢もあることをご案内されてみてもよいのではないかと思います。

03 手続面をスムーズに行うための代償分割

相続人の人数が多い場合、遺産分割は代償分割の方法によることで、スムーズに相続手続を進めていける場合が多いと思います。

例えば、不動産の相続で考えます。遺産である不動産を売却して各相続人で分けたい、という場合に、換価分割の方法(売却して、その代金を法定相続分に応じて分ける方法)によると、不動産を売却するためには、原則として、まず相続登記(法定相続分に基づく共有)を行い、そのうえで、登記名義人となった相続人全員が売主となり、売買契約を締結する必要があります。

もっとも、売買契約書や登記関係書類に、共有者である相続人全員の署名や押印、さらには印鑑証明書などの必要書類の手配などを行う必要があり、相続人の数が多ければ多い程、その準備に時間を要し、手続の負担が重くなってしまいます

そこで、手続的負担を減らす観点からは、代償分割の方法、つまり、不動産については特定の相続人のみが取得し、その後、売却した代金から各相続人の法定相続分に応じた代償金を支払う、という内容で合意すれば、当初の意図(不動産を売却して各相続人で分けたい)も達成できますし、不動産の売却自体は、特定の相続人のみを売主として手続を進めていけることになりますので、換価分割の方法よりは随分スムーズに手続を進めていけるのではないかと思います。特に相続人が多いケースでは、手続的負担の軽減効果が顕著ではないかと思います。

まとめ

 POINT 01 遺産分割協議の成立には相続人全員の合意が必要

 POINT 02 相続人間の公平の観点から、法定相続分を前提にした議論をする

 POINT 03 スムーズな相続手続のために、代償分割を選択する

いかがでしたか。相続人の数が多い場合の遺産分割は、公平かつ客観的な基準である法定相続分を前提に遺産分割協議を行うのが、各相続人の賛同を得やすく、結果として早期解決につながりやすいのではないかと思います。

もっとも、誰かが動かないと協議は進みません。そこで、遺産分割を解決したいと望まれる相続人が、遺産分割の申入れ書面を作成し、意見を取りまとめ、手続を進め、最終的に精算業務まで行っていくことになります。

解決を望む真面目な相続人が上記のような負担をしなければならず、その負担については公平とは言い難い部分もあります。その不公平を是正してもらえるよう、申入れに際し、他の相続人に打診されてみてもよいかもしれません。

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