法律コラム

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没交渉だった相続人に相続を辞退してもらいたい場合の進め方

事例|戸籍調査により養子が判明したケース

父が亡くなりました。母と兄は既に亡くなっていますので、両親の子供は私と甥(兄の子)だけです。

甥は、私と父が最後まで同居していたことを知っていたので、「お祖父ちゃんの遺産はいらない。叔父さんに相続分を譲渡するよ」と言ってくれて、先日、相続分譲渡証書と印鑑証明書を渡してくれました。

そこで、父名義の預金の解約のために必要書類を揃え銀行に提出したところ、銀行担当者の方から、

「お父様は、前妻の連れ子の方と養子縁組をしているため、その方からも印鑑をしてもらわないと、預金の解約手続は進められません。」

と言われてしまいました。

父が再婚だということは知っていましたが、前妻の子を養子にしていることは全く知りませんでした。一応、養子の方の名前と住所は分かったのですが、どのように連絡をしていいものやら、悩んでいます。

ここ数十年は、父と養子の方との接点はないと思います。そのような関係性の方に、父の遺産を相続されてしまうのは感情的にも納得できません。

相続から辞退してもらう方法はないのでしょうか?

架空の事例です

はじめに

没交渉の相続人の場合、まずは戸籍の附票を取得して現在の住民票上の住所を調べます。そのうえで、お手紙で相続分の譲渡を依頼してみる、というのも1つの選択肢です。

それでは以下で、詳しく見ていきましょう。

01 没交渉の相続人間では協議が難しい?

相続問題の場合、誰が相続人かということが極めて重要ですので、ご相談の際も、最初に相続人の範囲を確認することから始めます。その際、事例のように、戸籍を取得して初めて会ったこともない相続人の存在が発覚した、というケースも実際にあります。

会ったこともない方と、初めてのやり取りで「遺産をどう分けるか」ということを議論するのも、なかなかしんどいと思います。実際、そのような関係性の遺産分割協議はなかなかスムーズに進まないものです。

相手方の素性が分からない状況で、強く何かを要求されてしまうのは嫌なので、費用が掛かっても弁護士を間に入れて、自分では直接交渉したくない、ということでご依頼いただくケースも少なくありません。

そのような理由から、没交渉の相続人間で行う遺産分割については、弁護士関与の割合が比較的高いように思います。

02 没交渉の相続人に連絡を取る方法

最初に、相続人の範囲を確認する

先程も述べましたが、相続問題では、誰が相続人かを確定させることが極めて重要であり、最初に行っておくべきことです。

なぜなら、誰が相続人かによって法定相続分も異なりますし、遺産分割協議の当事者も変ってくるからです。

相続人の範囲を正確に把握できていないと、本来の法定相続分に達しない割合の権利を遺産分割で主張することになってしまうかもしれません。また、相続人のうち1人でも欠いて行われた遺産分割は全体として無効になってしまいます。

そのため、まずは、相続人の範囲を正確に把握することから始めましょう。

相続人の範囲は、亡くなられた方の出生から死亡までの連続戸籍を取得すれば、正確に把握することができます。

相続人の戸籍の附票を取得する

亡くなられた方の連続戸籍を取得すれば、誰が相続人かが明らかになります。

相続人は、婚姻をきっかけに新たに戸籍を作るなど転籍しますので、戸籍を追って行けば、現在の本籍地にたどり着きます。

そして、現在の本籍地で相続人の戸籍の附票を取得すれば、現在の住民票上の住所が分かります。

一部の例外はあるかもしれませんが、通常は住民票上の住所地に居住していることがほとんどのため、住民票上の住所が分かれば、手紙等の方法により、没交渉だった相続人にアクセスできるようになるわけです。

03 相続分の譲渡を依頼してみる

没交渉であっても相続人には変わりありませんので、相続人の所在が分かった場合、まずは、遺産分割協議を申し入れる、という対応が考えられます。

もっとも、没交渉の状態となって久しく、晩年の被相続人の状況も知らず、何ら関心を示すこともなかったのに、いざ相続が発生した場合には法定相続分をきっちりと請求されてしまうと、被相続人の面倒を見ていた相続人としては、感情的にはなかなか納得し難いものです。

もちろん、没交渉の相続人にも法律で認められた法定相続分がありますので、何ら不当な権利行使ではないのですが、そのような権利行使は、被相続人自身も望んでないことが少なくないでしょう。

そのような場合、法的に強制できるわけではなく、あくまでお願いベースの話にはなりますが、没交渉だった相続人に対して、例えば、
 ①被相続人が亡くなったこと
 ②戸籍を調査すると、貴殿も相続人の1人であること
 ③被相続人の晩年の状況と私との関係性
 ④被相続人の生前の言動
などを踏まえ、「被相続人の最終の遺志としては、私に財産を相続させたかったという意向が窺えるので、あなたの相続分を譲渡してくれませんか?」、という趣旨のお手紙を書き、相続分の譲渡を依頼してみる、というのは1つの選択肢です。

実際は、相続分を譲渡してくれるケースの方が圧倒的に少なく(経験上は10件に1件程度しか譲渡してもらえません)、言わばダメ元のお願いにはなってしまいますが、被相続人と相手方との関係性が希薄であり、かつ、相続人の数が多く相手方の法定相続分が少ない場合などは、意外と相続分を譲渡してもらえることもあったりします。

安易に相続分の譲渡を求めてしまうと、相手方の感情を著しく害してしまうことにもなりかねません。

そこで、相続分の譲渡を求めるべき事案かどうかは、被相続人との関係性や生前の言動などから慎重に判断したうえで、相続分の譲渡を求める場合には、丁寧な依頼文書を作成された方がよいでしょう

まとめ

 POINT 01 まずは、没交渉の相続人の所在を調べる

 POINT 02 相続分譲渡を依頼すべきケースか否かを慎重に検討する

 POINT 03 依頼する場合は、丁寧な依頼文書を作成する

いかがでしたか。没交渉の相続人に相続から辞退してもらうためには、丁寧な依頼文書により被相続人の遺志を説明し、ご理解ご協力を促す、というのが1つの選択肢ではないかと思います。

法的に強制できず、あくまでお願いベースの話であり、いわばダメ元での依頼ということになりますが、丁寧に被相続人の事情や相続分譲渡の必要性を説明すれば、相続分譲渡をしていただける割合が高まるのではないかと思います。

いずれにしても、相続分譲渡を求めるべきか否かについては、事案に応じ、弁護士等の専門家と十分に相談しながら慎重にご検討いただくことをお勧めします。

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