法律コラム

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同族会社内における紛争

はじめに

親族経営の同族会社では、オーナーによる会社の私物化、株主総会や取締役会の形骸化、法人財産と個人資産の混同、名義だけの株主など、様々な法的問題を抱えているケースが少なくありません。

そこで今回は、同族会社内の紛争としてよく発生するケースについて説明します。

01 名義株式の帰属

名義株式とは、他人名義を借用して、株式の払い込みがなされた株式のことをいいます。平成2年改正前商法では、株式会社設立時の発起人を7人以上とする必要があり(同法165条)、この要件を満たすために、名義の借用が行われるというケースはよくありました。

名義株式の帰属について、判例は、名義人ではなく実際に払込みを行った者に帰属すると判示しています。

【判例】
『他人の承諾を得てその名義を用い株式を引受けた場合においては、名義人すなわち名義貸与者ではなく、実質上の引受人すなわち名義借用者がその株主となる』(最判昭和42年11月17日民集21巻9号2448頁)。

名義株式の問題は、例えば会社経営者が亡くなり、その相続人が遺産たる自社株数を確認したところ、経営者以外の名義になっている自社株式が発見され、相続人と名義人との間で同株式の帰属を巡り争う、という形で、相続発生時に顕在化することが少なくありません。

そして、当事者間で名義株式の帰属について話し合いがつかなければ、最終的に株主権確認訴訟を提起して、裁判所の判断を仰ぐことになります。

誰が実質上の株主かを認定するにあたっては、株式取得資金の拠出者、名義貸与者と名義借用者との関係及びその間の合意の内容、株式取得の目的、取得後の利益配当金や新株等の帰属状況、名義貸与者及び名義借用者と会社との関係、名義借りの理由の合理性、株主総会における議決権の行使状況などを総合して判断されることになります(東京地判昭和57年3月30日参照)。

02 株式の譲渡

ある同族会社の株式について、例えば既に退任した元役員など複数人が保有しているような場合、分散した株式を後継者に承継させることができないとなると、円滑な事業承継の実現に支障が生じかねません。そこで、そのような場合には、事業承継実行の前提問題として、元役員の株主から、株式の譲渡を受けておいた方がよいでしょう。

普通株式については、会社側から株主に対し、株式譲渡を法的に強制することはできません。そのため、株主の同意を得て譲渡をしてもらう必要がありますが、非上場株式を譲渡する場合、株価について客観的指標がなく、譲渡代金をいくらとするかについて、当事者間で争いになることが少なくありません。

そこで、まずは純資産価額方式や類似業種比準方式、配当還元方式など会社規模や株主構成に適した計算方法により適正株価を算出したうえで、スムーズに株主の同意を得るためにも、同株価に一定のプレミアムを上乗せした価格を譲渡代金として提示することも検討してみてもよいかもしれません。

03 少数株主の解消

少数株主の存在は、事業承継など支配権を100%移転したい場合の支障になります。また、少数株主権が行使されると、経営のスムーズな意思決定が阻害され、安定的経営に支障が出てしまうリスクもあります。

そこで、事業承継を実行する前に、少数株主問題を解決しておくことが望ましいといえるでしょう。

任意の買取り

まずは、前述のとおり、少数株主が保有する株式について、任意の買取り交渉を行います。この場合、購入の主体(支配株主と発行会社、どちらが買い取るのか)や対価について協議する必要がありますが、その内容で少数株主が応じてくれれば、株式譲渡契約を締結し、必要な手続きを行い、少数株主問題を解決することができます。

もっとも、あくまで任意の買取り交渉であり、少数株主側が必ず応じてくれるとは限りません。特に、少数株主に相続が発生し、オーナー様との関係性が希薄化してしまっているような場合には、感情面(そもそも協力したくない)や経済面(もっと対価を支払って欲しい)などの理由で、売却に応じてくれないことがあります。

その場合は、残念ながら任意の買取りは難しいため、別の方法により少数株主問題を解消できる方法を考えざるを得ないことになります。

スクイーズ・アウト

次に、スクイーズ・アウトの方法により少数株主を会社から締め出す、という方法を考えます。少数株主に金銭を支払い会社から出て行ってもらうという方法であるため、キャッシュ・アウトとも呼ばれます。

スクイーズ・アウトの方法としては、現在、①特別支配株主の株式等売渡請求と②株式併合スキームが実務ではよく利用されています。

特別支配株主の株式等売渡請求

会社法の改正により導入された方法ですが、総株主の議決権の90%以上を有する株主(特別支配株主)は、会社の承認を得て、当該会社の他の株主が保有する株式全部の売渡しを一方的に請求できるようになりました。

つまり、90%以上の議決権を有する特別支配株主であれば、会社法の規定に基づき、少数株主問題をスムーズに解決することができます。

株式併合スキーム

少数株主の保有株式数が1株未満となるような併合割合で株式併合を行い、少数株主を非株主化する(少数株主には端数に相当する金銭を支払う)、というスキームにより、少数株主を会社から締め出すという方法です。

会社法の改正により、株式併合における少数株主保護の制度(情報開示、反対株主の株式買取請求、差止請求などの各制度)が整備されたため、スクイーズ・アウトの手段としてよく利用されるようになりました。

株式併合については株主総会の特別決議(出席株主の議決権の3分の2以上)が必要となりますので、支配株主側で総株主の議決権の3分の2以上を有している場合は、株式併合スキームによるスクイーズ・アウトを実行することができます。

反対に、支配株主側で3分の2未満の議決権しかない場合にはスクイーズ・アウトを行うことができませんので、株価に一定のプレミアムを上乗せした金額を購入価格として提示をするなど、何とか任意の買取りを目指すしかない、ということになります。

04 取締役に対する任務懈怠責任の追及

会社と役員の関係は委任契約であり(会社法330条)、役員は会社に対し、善管注意義務(民法644条参照)及び忠実義務(会社法355条)を負っています。そして、役員がその義務に違反、すなわち役員としての任務を懈怠した場合、任務懈怠責任として会社に対し損害賠償責任を負います(会社法423条)。

事業承継の実行にあたり、会社に法的課題がある場合には事業承継前に解決しておくべきでしょう。そのため、任務懈怠のある役員に対し、何ら任務懈怠責任が追及されていない場合には、事業承継前に任務懈怠責任の追及を検討することになります。

役員の任務懈怠責任は、事業承継の前提問題として顕在化することが少なくありません。

05 取締役・従業員の不祥事対応

取締役や従業員が、例えば業務上保管する会社のお金を私的に流用した場合、刑事上は業務上横領罪(刑法253条)にあたりますが、民事上は、不当利得返還ないし不法行為の損害賠償の責任を負うことになります。

事業承継の実行にあたり社内の調査等を行う過程で、取締役や従業員の不祥事が発覚する場合があります。そのような場合は、後継者に不祥事問題に対応させるのは酷ですので、事業承継前に事前に不祥事に対する責任追及を検討することになります。

取締役・従業員の不祥事対応は、このように、事業承継の前提問題として顕在化することが少なくありません。

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