
生前における遺留分対策の可否とその方法
事例で考える相続
2023/08/22
私の夫は農家の3人兄弟の長男です。私は結婚以来30年間、長男の嫁として夫の両親と同居し、家業の農業を手伝ってきました。子供はいません。
5年前に夫が他界した後も、私は義父母と一緒に住み続け、年老いた義父母の介護と農業に従事してきました。義父母の面倒を看るのは長男の嫁として当然の務めであると考えていたため、私と義父母との間では、家業の手伝いや介護についての契約書等も交わしていませんし、お給料ももらっていません。
先月、急に義父が亡くなりました。遺言書はありません。葬儀の際に、それまで疎遠だった夫の弟2人が突然現れ、相続財産を全て義母と弟2人で分けると言ってきました。
ずっと義父母の面倒を看てきた私は、何の権利も主張することはできないのでしょうか?
※架空の事例です。
相続法の改正により、相続人ではない一定の親族に対しても、被相続人の財産の維持や増加に貢献をした場合には、特別寄与料として金銭を請求する権利が認められるようになりました。
以下詳しく見ていきましょう。
改正前民法(相続法)のもとでは、今回のご相談者である「長男の嫁」の様な立場の方は、どれだけ家業の手伝いや介護等、被相続人に尽くしてきたとしても、相続人ではないため、相続財産を取得することができませんでした。
改正相続法は、このような相続人以外の方の貢献を考慮した相続の実現のための方策として以下のとおり「特別の寄与」の条文を新設しました。
まずは、新設された条文を確認してみましょう
【1050条】
1 被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族(相続人、相続の放棄をした者及び第891条の規定に該当し又は廃除によってその相続権を失った者を除く。以下この条において「特別寄与者」という。)は、相続の開始後、相続人に対し、特別寄与者の寄与に応じた額の金銭(以下この条において「特別寄与料」という。)の支払を請求することができる。
2 前項の規定による特別寄与料の支払について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、特別寄与者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から六箇月を経過したとき、又は相続開始の時から一年を経過したときは、この限りでない。
3 前項本文の場合には、家庭裁判所は、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、特別寄与料の額を定める。
4 特別寄与料の額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。
5 相続人が数人ある場合には、各相続人は、特別寄与料の額に第900条から第902条までの規定により算定した当該相続人の相続分を乗じた額を負担する。
特別の寄与は、無償の療養看護その他の労務の提供に限られます。そのため、たとえば「被相続人の老人ホームの入居一時金を負担した」、あるいは「農機具購入のために100万円を被相続人の代わりに支払った」といった財産上の給付は特別の寄与にはあたりません。
また;寄与行為と相続財産の維持や増加との間に、因果関係が認められなくてはなりません。そのため、たとえば「毎日病院を訪ねて、元気になるように励まし続けた」といった精神的な援助は特別の寄与にはあたりません。
特別寄与料を請求できる特別寄与者は、相続人以外の被相続人の親族(6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族(民法725条))に限られます。特別寄与者を無限定に認めることで、紛争の長期化や複雑化が生じることを避けるためです。
そのため、たとえば「事実婚(内縁)の配偶者」や「同性のパートナー」は特別寄与者にはあたりません。親族ではない方が療養看護や家業の手伝いを行う場合には、生前に契約書を交わすなどの事前の対策をしておくと良いでしょう。
権利行使の期間は、特別寄与者が相続の開始及び相続人を知ったときから6か月(時効期間)または相続開始の時から1年(除斥期間)です。
相続人が複数いる場合には、相続財産を取得する予定の相続人の一人又は数人に対して請求することができます。相続人の全員に対して請求する必要はありません。
特別寄与者は上記期間内に相続人への協議を申し入れます。協議が整わない場合には、請求相手方である相続人(のうちの一人)の住所地を管轄する家庭裁判所に対し、特別の寄与に関する処分の調停申立てを行い、調停が調わない場合には、相続が開始した地(被相続人の住所地)を管轄する家庭裁判所に対し、特別の寄与に関する処分の審判申立てを行います。
家庭裁判所は、特別の寄与に関する処分の審判において、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、特別寄与料の額を定めることができます。
そのため、たとえば、特別寄与者が療養看護をしてきた場合には、どのような寄与があったのかを示すための資料を裁判所に提出する必要があります。具体的には、①被相続人の要介護度、②療養看護の日数、③療養看護の具体的な内容(食事・入浴・トイレ等の介助、服薬管理等)等を示す資料を準備し、裁判所に提出します。
家業の手伝いの場合には、①業務に従事した期間、②業務の内容、③第三者を雇用した場合に支払う給与等を示す資料を準備し、裁判所に提出します。
POINT 01 特別の寄与は、請求者が被相続人に対して「無償で」療養看護その他の「労務の提供」をし、その結果、被相続人の財産が維持または増加した場合に認められる
POINT 02 請求者は、被相続人の親族に限られる
POINT 03 請求者は、各相続人に対して各相続人の相続割合に応じた金員(特別寄与料)の請求ができる
ご相談者は、義父母の介護と家業の手伝いを無償でおこなってきたため、これらはいずれも被相続人(義父)に対する労務の提供にあたり、特別の寄与があると考えられます。そして、ご相談者は被相続人(義父)の長男の配偶者であるため、親族(1親等の姻族)として特別寄与者にあたります。
そこで、義父が亡くなってから6か月以内に相続人である義母と夫の弟2人に対して、寄与料請求の協議を申入れましょう。協議が調わない場合には、管轄の家庭裁判所に調停の申立てをします。
特別寄与料の請求について、相続人との間で調停が調わない場合は、更に家庭裁判所に審判を申し立てることになります。ご自分がどれだけの期間や頻度で、どのような介護をおこなってきたか、どのような業務に従事してきたか、可能な限り客観的な証拠を残すようにするとともに、日記等にも記録を残しておくようにしましょう。
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