法律コラム

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未成年の相続人との遺産分割協議の進め方

事例|前妻との間に未成年の子がいるケース

先日、夫が仕事中に亡くなってしまいました。夫と私はともに再婚同士で、2人の間に子どもはいませんが、夫には、前妻との間にAとBという2人の子どもがいました。Aは15歳、Bは12歳のいずれも女の子です。

夫の遺産は、自宅マンション(5000万円)と預金(3000万円)です。法定相続分で計算すると、私は1/2の4000万円相当額しか取得できないことになります。しかし、私としては、今後もマンションに住み続けたいので、AとBには、預貯金3000万円の取得で何とか納得してもらいたいと思っています。

夫が前妻と離婚した原因は私ですので、前妻は、私のことを相当恨んでいると思います。。できれば、直接、前妻と協議をしたくないのですが、AとBは未成年者なので、親権者である前妻と遺産分割協議を進めるしかないのでしょうか。そもそも、未成年の相続人がいる場合、誰と遺産分割協議を行う必要があるのでしょうか。

架空の事例です

はじめに

相続人が未成年の場合、親が法定代理人として遺産分割協議の当事者となります。もっとも、遺産分割協議において親が法定代理人となれるのは1人だけですので、複数の未成年の相続人がいる場合、2人目以降の未成年者には、家庭裁判所で特別代理人を選任する必要があり、特別代理人との間で遺産分割協議を行う必要があります。

それでは以下で、詳しく見ていきましょう。

前妻との子も第1順位の相続人

日本の民法は、法定相続制度を採用しています。そのため、遺言がない場合は、法定相続人間の遺産分割協議により、遺産分割を行います。

法定相続人の順位及び相続分は、民法で以下のとおり定められています。

第1順位

   配偶者  1/2
    子   1/2

第2順位

   配偶者  2/3
  直系尊属  1/3

第3順位

   配偶者  3/4
  兄弟姉妹  1/4

子は、第1順位の相続人です。前妻との間の子であっても、離婚後も父の子であることには変わりませんので、父の第1順位の相続人となります。

なお、前妻は、離婚してすでに配偶者ではありませんので、相続人ではありません。

相続人が未成年の場合

日本の民法では、未成年者は、単独で有効に法律行為ができないとされています。それでは、相続人が未成年者の場合、誰との間で遺産分割協議を行えばよいのでしょうか。

法定代理人

未成年者が法律行為を行う場合、親権者が代理して法律行為を行います。遺産分割についても、親権者が法定代理人として、遺産分割協議を行うことになります。

親権者がいない場合は、未成年後見が開始します。そして、親族等の請求により未成年後見人が選任されれば、未成年後見人が法定代理人として、遺産分割協議をはじめ、各種の法律行為を行います。

特別代理人

親権者がいるケースでも、未成年者の法定代理人として遺産分割協議を行えない場合があります。

例えば、未成年の子がいる夫婦で、夫が亡くなってしまった場合を考えます。妻は、子の親権者であると同時に、自身も配偶者相続人となります。その場合、潜在的には妻と子の利害が衝突する関係(利益相反関係)にあるため、妻と子の間で遺産分割協議を行うためには、子のために、「特別代理人」を選任する必要があります。

特別代理人を選任しなければいけない場合としては、上記のような親権者と子の利益が相反する場合や、事例のような同一の親権に服する子の間で利益が相反する場合などです。

特別代理人は、子の住所地を管轄する家庭裁判所に選任申立を行います。

【参照】
裁判所ホームページ:「特別代理人選任(親権者とそのことの利益相反の場合)

特別代理人の責任

特別代理人は、親権者や未成年後見人のような包括的で継続的な代理権を有するわけではなく、特定の行為につき個別的に選任される代理人です。そのため、特別代理人の権限は、裁判所の選任審判の趣旨によって定まります。

そして、遺産分割協議書案とともに特別代理人選任が申し立てられ、審判主文に同協議書案が掲げられた場合、特別代理人の権限は、同協議書案の内容に拘束されるものと解されています。

もっとも、特別代理人は、未成年者の遺産分割における代理人であり、未成年者の利益を図るべき立場の者で、善管注意義務(家事審判法16条、民法644条)を負っています。そのため、そもそもの遺産分割協議書案が相当かどうかについても、特別代理人が判断しなければならず、そのために必要な調査については特別代理人が行う必要があります。

そして、必要な調査を怠り、未成年者に不相当な内容の遺産分割協議を成立させた場合、善管注意義務違反の責任追及を受ける可能性があります。

この点、未成年者の特別代理人に選任された弁護士が、選任審判の主文に掲げられた遺産分割協議書案に、未成年者以外の相続人が「それ以外の遺産」を取得するという記載があるにもかかわらず、「それ以外の遺産」の内容についての調査をせず、その協議書案どおりに遺産分割協議を成立させた事案において、裁判所は、以下のとおり判示しています。

【広島高裁岡山支部平成23年8月25日判決(判例タイムズ1376号164頁)】
『遺産分割協議を行うための特別代理人選任の審判の場合、審判主文に遺産分割協議書案を掲げる場合と掲げない場合とがあるが、審判主文に遺産分割協議書案が掲げられている場合には、特別代理人の権限は具体的に特定されているから、当該遺産分割協議案に拘束されると解され、実務上もそのように運用されている。
もっとも、当該利益相反行為の相当性の判断は、本来、家庭裁判所ではなく特別代理人がすべきものである。本件のように、審判主文に遺産分割協議書案が掲げられている場合でも、特別代理人は、当該遺産分割協議書案のとおりの遺産分割協議を成立させるか否かの判断をする権限を有しているのであって、未成年者保護の観点から不相当であると判断される場合にまで当該遺産分割協議書案のとおりの遺産分割協議を成立させる義務を負うわけではない。このような場合には特別代理人は当該遺産分割協議を成立させてはならないと解される。そして、特別代理人は、家事審判法16条、民法644条により、その権限を行使するにつき善管注意義務を負う以上、被相続人の遺産を調査するなどして当該遺産分割協議案が未成年者保護の観点から相当であるか否かを判断すべき注意義務を負うと解すべきである。
   ・・・(中略)・・・
被告(特別代理人たる弁護士)が原告(未成年者であった者)、竹夫(遺産のほとんどを取得した相続人)やEA弁護士(特別代理人の選任申立てを代理した弁護士)に積極的に問合せたり、関係者に不動産登記簿謄本や固定資産評価証明書等を提出させたり取り寄せるなどしていれば、「それ以外の遺産」として太郎(被相続人)名義の預貯金や本件各土地が存在することが明らかになったはずであるし、そうすれば、進んで本件各土地が売却されて本件売買代金が存在する事実を把握できた可能性もある。そして、このような事実が明らかになれば、変更後の遺産分割協議書は原告にとって不相当な内容であると判断されるはずである。そうすると、被告としては、このような遺産分割協議を成立させてはならなかったといえる。しかるに、被告は、太郎の遺産についてさしたる調査をせず、EA弁護士から要請されるままに特別代理人への就任を了解し、家庭裁判所の審判を経て変更後の遺産分割協議書に署名捺印したのであるから、特別代理人としての善管注意義務に違反したといえる。したがって、被告は、変更後の遺産分割協議書が成立したことによって原告に損害が生じた場合、これを賠償すべき不法行為責任を負うというべきである。』(下線及び括弧書引用者)

以上のように、未成年者の特別代理人に選任された者としては、審判主文に遺産分割協議書案が掲げられている場合でも、未成年者とのために不相当な内容とならないように必要な調査を行わなければいけません。また、審判主文に遺産分割協議書案が掲げられていない場合であっても、どのような内容でも遺産分割協議を成立させられるわけではなく、あくまで未成年者の利益を確保できるよう、不相当な遺産分割をしてはならないことになります。

まとめ

 POINT 01 相続人が未成年者の場合、特別代理人を選任する必要があるかを確認する

 POINT 02 特別代理人の選任が必要な場合、選任する人数を確認する

 POINT 03 特別代理人の善管注意義務違反に注意する

いかがでしたか。相続人に未成年者がいる場合、原則として、親権者か未成年後見人が法定代理人として遺産分割を行います。しかし、親権者等と未成年者の利益が相反する場合や、同一の親権に服する子の間で利益が相反してしまう場合には、特別代理人を選任して、特別代理人と遺産分割協議を行う必要があります。

そして、特別代理人は、未成年者に対し善管注意義務を負っていますので、未成年者に不利益となるような不相当な内容の遺産分割協議を成立させてしまった場合には、善管注意義務違反による損害賠償責任を負わなければいけない可能性があります。

特別代理人に選任された場合には、漫然と遺産分割協議書案を受け入れるのではなく、未成年者の不利益にならないか遺産分割協議書の内容をきちんと精査し、必要に応じ調査をして、未成年者が本来得られる利益を確保してあげるように最善を尽くしましょう。

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